リボンの檻 3 【真名部陣一郎】 (ページ15)

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△リボンが110こ▽ ページ15

彼女なりに真名部を慰めようとしていたんだろう。
そっと真名部の頭の上に乗せられた優しい手。
人を殺めたとは思えない手。

なのに脳裏に残るのは、警備員を殴った後のA。

目を見開き、無表情で下に転がり落ちた人だったモノを見下ろす、冷たい瞳。

まるで別人のようだった。

真名部は知りたくなかった。
彼女にこんな一面がある事に。

真名部は知りたくなかった。
それでも自分は彼女に縋ってしまう事に。

もうこの時には真名部は、完全に彼女に心を許してしまっていた。

「私、アタマが足りないの。ママにもいっつもそれで怒られちゃって。ごめんね、まなべ」

「…………いいえ」

「怒る？……怒るよね。うん、いいよ。
私、まなべになら怒られてもいいよ」

「……いいえ」

「…？怒らないの？だってまなべ、怒って……」

「もう、いいんです」

いつも彼女に触れると照れくさくて、自分からは絶対に触れないはずなのに。

真名部はおもむろに彼女に頭を寄せると、彼女の膝を抱えていた腕に頭を乗せた。

唐突の事にAは驚き、ﾊﾟﾁｸﾘと真名部を見遣る。

対して真名部は酷く疲れた瞳で床を見つめながら
震える声で続けた。

「もう、いいんです……
いいから、早く……帰りましょう」

「……」

「早く、帰りたいんです……もう、今日は……疲れたので」

「……うん、わかった」

ぎゅう、とAの服の袖を握る真名部にAは微笑み、頷くとおもむろに立ち上がる。

そうしてAは真名部に手を差し出すと
真名部は何の躊躇もなく、その手を掴んで立ち上がった。

「…別の階段から降りましょう」

「うん」

「あと…そのフライパンは隠しておいて下さい。
…あまり、見たくありませんし」

「うん、わかった！」

真名部に言われ、Aは持っていたフライパンを自分の背中に回すと、着ていた上着の背の中に持ち手を突っ込んだ。

元々きちんと上着を着ていなかった上に大きめの上着なので、持ち手はすっぽりと上着の中に収まり
上の部分も小さいのでフードを被せると、一見何も無いように誤魔化す事が出来た。

まさかこんな風にフライパンを持ち運んでいたとは真名部も思わなかったが、疲れていたのか特に反応は無く
Aに引っ張られるまま、真名部は別の階段の方へと歩き出した。