リボンの檻 3 【真名部陣一郎】 (ページ14)

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△リボンが109こ▽ ページ14

「………」

「ひっ……！？」

真名部は顔を引き攣らせ、Aを見遣る。
呼吸は大分整ったが、また身体が震え始めた。

そんな時、ずっとこちらに背中を向けたまま動かなかったAが動き出す。
ゆっくりとこちらに歩み寄るA。
真名部は恐怖を感じ、僅かに後ろに後退る。

だがそんな事で彼女と距離が取れるはずもなく
彼女は真名部の前に立つと、目線を合わせるようにしゃがみ込む。

片手にはフライパン。
警備員を殴った凶器。

真名部はただただ怯えた顔で
Aの濁った瞳を見つめた。

「……だいじょーぶ？まなべ？」

「あっ……ぁ、あなた………あなた、は……」

「そう言えば、言ってなかったね。
私がいつもコレ持ち歩いてる事」

真名部の顔を見て、彼女は今更微笑みを浮かべると
持っていたフライパンを真名部に見せ、真名部は顔を更に引き攣らせた。

するとAは何処か悲しそうに笑い、視線を落とす。見せていたフライパンも下ろして、少しの間を空けると、Aはﾎﾟﾂﾘと呟いた。

「……………こわかった？」

「………ぇ……？」

「さっきの私、怖かった？
おじさんよりも、恐かった？

…………キライに、なっちゃった？」

何処か寂しげな声だった。
抱えた膝の上に顎を乗せ「えへへ」と力なく笑う。

予想外の質問に真名部は一瞬目を白黒させていたが
すぐにまた怯えた顔をすると、震えた声を絞り出した。

「…………怖かったに、決まってるじゃないですか。
目の前で人が殺されたんですよ……！しかも、よりによってアナタの手で！
怖かったに、決まってるじゃないですか……！」

「…ごめんね、真名部。でも真名部はあのおじさんの事怖がってたから……やっつけよう(・・・・・・)として……」

「だからって殺さなくてもっ…！
そもそも！あの人に声を掛けられた時点で逃げるなり誤魔化すなりすればっ…！あんな事にはっ……」

「……ごめんね」

怖かった。本当に。

先程の光景も。彼女自身も。
怖くて怖くて堪らない。

なのに気付けば真名部はﾎﾟﾛﾎﾟﾛと涙を流しながら
彼女の伸びた手に縋っていた。