【イナイレ】シッカーラプンツェル【不動明王】

◇ラプンツェルと悪人 ページ22

病院が見えなくなった後も、車は走る。どんどん走る。

最初はお店とかお家とか周りにいっぱいあって、明かりも沢山付いている通りを走っていたのに。
その明かりや建物がだんだんと少なくなっていって
私は時々窓からその流れる景色を眺めながら、エイリア石を両手で弄った。


この石のおかげで今の所、ﾄﾞｷﾄﾞｷしても発作は起きない。

でもやっぱり不安だ。この石はきっと私の病気を軽くするだけで、治すワケではない。


もしかしたら、いつかこの石のチカラが効かなくなってしまう時が来るかもしれない。

そうなったら私、本当に死んでしまうかも。



………やっぱり私、あの病院に残ってた方が良かったかな。



「……悪かったな、さっきは」

「…！」



不意に、車に乗ってからずっと黙っていた彼が口を開いた。

私は恐る恐る彼の方を見ると、彼は正面を見据えたまま小さな声で続けた。



「その…急に、乱暴な事して。
少し、向こうで色々言われてイライラしてたから」

「……」



意外過ぎる彼の言葉に私は目を丸く見開き、瞬かせる。

思わず凝視してしまったら、彼は私の視線に気付いたのかﾌｲｯと向こうの方を向いてしまった。



……この人は、案外そこまで怖い人じゃないのかも。


最初は本当に怖くて怖くて堪らなかったけれど
でもこうして謝ってくれたし、足を滑らせて落ちた時も受け止めてくれたし。

もしかしたらこの人は、言動が怪しくて怖いだけで
根はそこまでじゃないのかも。



……まだちょっと怖いけれど。



「…ううん。私もアナタをイライラさせちゃったのが悪いんだし」



どう答えればいいのかちょっと戸惑ったけれど、私はそう言って肩を竦める。

「ごめんなさい」と私も謝ったけれど、彼は何も言わずに窓の外を眺めていた。


その後、会話が途切れてしまって、車内はまた静かになる。
車は薄暗い道をただひたすら進むだけで、何も面白くない。


また暫くお互い何も言わないままだったけれど
ふと、私は彼の名前をまだ聞いていない事に気付いて、私は彼に尋ねた。



「ねぇ、アナタのお名前はなぁに？」

「…名前？」

「うん。アナタのお名前、私まだ聞いてなかったから」

「……」



私の問いに彼は少しの間ら何やら考えるような素振りをしていた。

もしかして自分の名前を教えたくないのかなって思ったけれど、そういうワケではなかったみたいで
やけに長い沈黙の後、彼は窓の方を見ながら静かに答えた。



「……不動明王だ」

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