13話 ページ13
土を掘り起こしている間に、名前を聞かれた。
俺が名乗ると男も律儀に名を名乗る。
この男は鱗滝左近次というらしい、そういえば炭治郎が鱗滝と言っていた気がするが、もしかしてこの人の事なのだろうか。
名字だけで名前はきかなかったな。
土を掘り返すほどに指先が冷え、息をかけて何とか耐える。
鱗滝さんは掘るのがとても速かった、俺の倍、いやもっと先まで掘り進めている。
彼が言うように今日は寒い。
早く掘り終えないと。あの人たちが寒い思いをしてしまう。
炭治郎の方を見ると、彼はまだ大きな石をもってその場に立っていた。
俺は冷えた手をもう一度温めて土をかき始める。
鬼を刺す時、必死で、ただ必死で何も考えずにあいつに刀を刺したが、その感覚が今でも全身に残っている気がしてとても気持ちが悪い。
炭治郎が今前にしているのは、無抵抗の鬼の頭部。
切羽詰まった状態で動いているときは考えもしないのに、冷静になると思考が止まらないことは良くあることだ。
彼の思考が読めるわけではないが、もしかしたら痛いかなとか、苦しいかなとか考えているのかもしれない。
掘り終える頃には遠くの空がうっすらと明るくなっていて、俺と鱗滝さんは遺体をお堂から一人ずつ丁寧に連れ出し、土の中に寝かせた。
土をかけ、手を合わせようとすると突然叫び声が聞こえて立ち上がる。
今まで木にはりつけられていた鬼の頭部が炎に焼かれるかのように、煙を上げ、断末魔をあげながら消えていく。
炭治郎がやったのか?
理解が追いつかないでいると、いつの間にか禰豆子がいないことに気付き、辺りを探す。
彼女を見つけたのはお堂の隅。籠に入り、布を頭からかぶりながら眉をひそめていた。
どうしたのか問いかけたが、彼女はすっぽりと籠に収まってしまい、それ以上聞けそうにない。
お堂から出ると二人が向き合って何かを話しているようで、禰豆子の事を伝えようと思い近づこうとしたその時だった。
鱗滝さんが、炭治郎の頬を叩き、静まり返るこの場所の空気を震わせたのだった。
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作者名:矢月 | 作成日時:2020年2月15日 13時