37話 ページ37
山から下りると、道草もくわずまっすぐに帰った。
というより、道草を食おうとか、横道にそれようとかそんな事すら考えられないほど脳が疲弊していた。
足だけはとにかく動かしていると、夕方頃に、狭霧山に到着し、鱗滝さんの家にたどり着いた。
しかし家を見た途端、緊張の糸が途切れてその場でへたりと座り込む。
もう少しなのに、その少しの距離がとても遠くて、立ち上がれない。
家からは煙が出ている。
多分鱗滝さんが夕食の準備をしているのだろう。
その煙を眺めていると、目の端に動くものが見えてそちらに目をやる。
すると目に飛び込んできたのは、会いたいと願っていた炭治郎だった。
「A!!A―――ッ!!」
刀を鞘ごと腰から引き抜き、杖のように使って立ち上がる。
するといつの間に近くまで来ていたのか、彼が飛び掛かるように抱き着いて来て、そのまま態勢を崩して地面に尻もちをついた。
「何で見送らせてくれなかったんだ!!心臓が止まるかと思ったんだぞ!!朝起きたらAが居なくて、俺はずっと探し回ってたんだからな!!そうしたら鱗滝さんがもう藤襲山に向かったっていうし、俺もうどうしていいかわからなくなって」
彼は俺から体を離すと、目を合わせる。
「もうこんな事二度とするな!二度とするんじゃない!!」
そう言いながらぼろぼろ涙を流す。
炭治郎は今日も鍛錬をしていたんだろう、顔が泥だらけだった。
頬を撫でるように手を当て、あふれてくる涙を親指で何度も撫でる。
「A…!」
また抱き着いてくる彼を受け止めると、それを返すように抱きしめた。
彼はとても温かかく、ふと自分の頬が涙で濡れていることに気付く。
生きてる…
俺は生きてる…
帰ってこれたんだ、炭治郎達のいるところに…
「鱗滝さんも、禰豆子も待ってる、家に入ろう」
でも、どうしてだろう
胸のあたりが冬の木陰のように寒い。
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作者名:矢月 | 作成日時:2020年2月15日 13時