熱にうかされて ページ12
ビクターさんは少し迷うそぶりを見せたが、すぐにその体を窓際の座席に移動させた。
「覚えていますか？
私と貴方が初めて会ったときのことを」
「……もちろん、覚えていますよ」
ひとつぶん開けられた座席。
そこにはまだ彼のぬくもりが残っていて。
生暖かいぬくもりは私の温度と混ざり合い、溶けていく。
やがて熱となったそれは私の心に火を付け、判断力、羞恥心をともに鈍らせていった。
「……私はあの時からずっと、
貴方に心惹かれているのかもしれません」
「そ、れは……」
突然の告白に息を呑み、身を強張らせるビクターさん。
これ以上何か言えば、きっと彼に追い討ちをかけてしまう。
それでも私は言葉を止めるつもりはなかった。
いや、止まらなかった。
「……貴方といると胸がどきどきして、
もっと貴方のことを知りたい、触れたいと思うのです」
薄桃の頰が次第に紅く色付いていく。
その赤い顔で困ったように目を逸らす彼の姿が、たまらなく愛らしい。
嗚呼、もっと、もっとその表情を見せて。
いや、表情だけじゃない、貴方という人間のすべてを私にーー。
「教えてください、ビクターさん。
貴方という人のことを、私に」
心のままに、全てを吐露した私はいったいどんな表情をしているのだろう。
目の前のビクターさんは泣きそうに顔を歪ませていた。
そしてその潤んだ大きな目を逸らし、言った。
「……できません。
貴方は公爵令嬢で僕は一般市民。
交わることは、許されません……」
"公爵令嬢"
その単語を耳にした瞬間、
カッと頭に血がのぼるのを感じた。
「公爵令嬢がなんですか！
そんなもの、いま関係ありませんわ……！」
衝動のままに、湧き上がってきたものを彼にぶつけた。
身分の違いがふたりを隔てる理由になること。
そしてそれが自分たちではどうにもならないこと。
その全てを私も、ビクターさんもわかっていた。
だからこそ悔しくて歯がゆくて仕方なかった。
公爵令嬢という身分が、決して外せない枷となることを。
「お、落ち着いてください……！」
まだ熱の残る顔で必死に私を宥めるビクターさん。
そんな彼の姿を見ると
心のなかで燃え盛っていた炎が、怒りが、
一瞬にして消えてしまった。
そんな気がした。
「……ごめんなさい」
力なく呟いたその言葉が、列車内に虚しく響いたーー。
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れみこ(プロフ) - 怜さん» ありがとうございます！！！うおお嬉しいお言葉……！その代わり中々話が進まないですけどね…←警官ビクターくんは守るべき対象にはきっと紳士的だろうなと夢見ておりますので…！事件解決まで頑張っていきます！ (2020年7月6日 17時) (
レス) id: f32edadf87 (このIDを非表示/違反報告)
怜(プロフ) - れみこさん、新作おめでとうございます！相変わらず描写が丁寧でキャラの心情もスッと入ってくる文章で....。本当に憧れます。序盤なのにビクターくんが格好良くてニヤニヤしてしまいました。今後の展開も楽しみにしています！ (2020年7月6日 15時) (レス) id: 6fe8036f83 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：れみこ | 作成日時：2020年6月30日 13時
