弐拾弐の話 ページ22
周りの煙が完全になくなって、私はその場に座り込む。
再び外を見ても、あの狼…犬か分からないけど、あの生物の姿は無かった。
居たはずの場所に足跡すら残ってない。
何だったんだろう。あれも妖だったのかな。
それにしては鬱が怯えてた…というか、邪険にしてたけど。使役してるとか何とか。
ここは神社だし、神様の一種？それともただの狼？
この時代なら今は絶滅したニホンオオカミも生きてるだろうし、可能性はある。
でも私の頭の中は、そんなことを考えてる暇なんてなかった。
『…鈴……壊れちゃった…』
エーミールさんが私の為にプレゼントしてくれた鈴の破片が、辺りに散らばっている。
悪いのは全部鬱…でも、警戒心が薄かった私も私だ。
ちゃんと謝らないと。
理由もちゃんと添えて…でも、またエーミールさんに心配をかけるかもしれない。
しかも鬱が来たのは、私がエーミールさんのことを怪しく考えてたからだ。
私って、最悪じゃんか。
こんなに助けられてるのに、悪く思うなんて。
『ごめんなさい…』
その瞬間、私の意識がどこかへ飛んだ。
*
「……さん、……Aさん！」
私を呼ぶ声が聞こえる。
うっすらと目を開けると、優しい光が飛び込んで、眩しくてまたぱちぱちと目を閉じた。
「大丈夫ですか？」
『…私、さっき…』
「帰ってきたらAさんがここで倒れてて…いや、寝てたの方が正しいんかな。それで見に来たら、周りに鈴の破片もあるし…何かあったんですか？」
エーミールさんは怪訝な顔を一つもせず、ただ心配そうに私の背中に手を当てて、上半身を起こしてくれながら、顔を覗き込んできた。
『……ごめんなさい、鈴、壊れちゃった……』
優しいその顔を見ると、途端に涙が浮かんできた。
普段は大して涙脆くないくせに、どうしても止まらない。
エーミールさんは「大丈夫、大丈夫」と子どもをあやす様に私の背中を撫でた。
「鈴なんて、Aさんと比べればただの物ですよ。貴方が無事でほんまに良かった…何があったか、ゆっくりで良いので話せますか？」
優しい声色でそう言われて、安心したのか、私の涙は少しずつ乾いていく。
言わなきゃ、彼のこと…
…彼って、誰だっけ。
『…あの、誰か来たんです…けど、思い出せなくて…』
「思い出せない？」
『はい。えっと…名前が…』
思い出せない。あんなに怖くて、あんなこともされたのに。
『…煙草の、煙』
思い出せたのは、これだけ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1307人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にゃーちゃん - めちゃくちゃ好きです…!!マジで尊過ぎる…しかも推しの一人(htrn)出てきたってマジ？神回の予感しかしない…!!!更新頑張って下さい。楽しみにしてます！ (2023年5月3日 0時) (
レス) @page27 id: fd6863f2a6 (このIDを非表示/違反報告)
柚衣 - 続きがとても待ち遠しいです！妖パロめっちゃ好きなので、この作品を見つけることができて、よかったです。更新頑張ってください(^∇^) (2022年4月19日 18時) (レス) @page25 id: a954c39e8d (このIDを非表示/違反報告)
舞太郎 - 珍しい妖パロですねえこういうの雰囲気結構好きですねええ続きが楽しみだわ。神作品だねえ (2021年9月12日 14時) (レス) id: 6f46ea7e84 (このIDを非表示/違反報告)
トシinミルク - 続きが楽しみです！更新頑張ってください！ (2020年4月18日 9時) (レス) id: 4eab459e35 (このIDを非表示/違反報告)
因幡 - 続き待ってます (2020年4月16日 21時) (レス) id: c0af763869 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：一条
| 作成日時：2020年4月16日 11時
