ghost.40 ページ40
私はピアノが弾けなくなった。
今まで何となくあった感覚とか、楽譜を見てある程度のメロディを把握する能力とか、そういったものが一切無くなってしまった。
何度楽譜を読んでも、分からない。
私は、ピアノの弾き方を忘れてしまった。
最初はただのスランプだろうと思ってた。
そう自分に言い聞かせていた。
でも、何日経っても弾けなくて。
幸いなことに大学はちょうど春休みだったので、学業に支障は出なかった。
春休みの間は、感覚を取り戻すべく、毎日ピアノに向き合った。
それでもダメだった。
鍵盤に置いた手が震えて、楽譜を見ると頭が真っ白になって、動けないまま時間だけが過ぎていく。
こんなことは生まれて初めてで、私はパニックに陥っていた。
と、同時に、かなり焦った。
「ピアノが弾けなくなってしまった」
そんなことが周囲の人間にバレたらどうなるだろう。
柊 Aは常に完璧で、皆の憧れ。
ピアノは上手くて当たり前、賞を取るのも当たり前。
そんな共通認識が既に出来上がってしまっている。
「将来有望だ」と言ってきた大人たち、
「憧れです」と言ってきた同級生、
みんなみんな、こんな私を知ったらガッカリしてしまう。
周囲の目が、怖かった。
眠れない日々が続いていたある日、母が久しぶりに帰国してきた。
私は、思いきって母親にカミングアウトをした。
「もしかしたら、お母さんなら解決策を知ってるかも」
「お母さんなら『大丈夫だよ』って声をかけてくれるかも」
そう思って。
しかし、現実はそう甘くはなかった。
「ピアノが弾けなくなってしまった」。
そう告げた私を見る母の目は、恐ろしいほどに冷たかった。
その瞬間、頭をガツンと殴られたような衝撃が走った。
お母さんだけは、ピアノが弾けなくなっても私から離れていったりしない。
そう思い込んでいたから。
けど、母も同じだった。
私に注目する周囲の人間と同じで、ピアノを弾く私にしか興味が無い。
母の冷たい目、淡々と告げられた言葉。
その何もかもが痛かった。
"ピアノが弾けない私には何の価値も無い"
そう証明されてしまった瞬間だった。
憧れの母にも見放され、私はだんだん追い詰められていった。
人間、追い詰められたら正常な判断が出来なくなるというのは本当だ。
気付いたときには、私は崖から海へ飛び込んでいた。
毎日が辛くて、苦しくて。
楽になれるなら何でもよかった。
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ましゅ☆まろ。紫月まろ。(プロフ) - とっても面白かったです！今更ながらですが、完結おめでとうございます！ (7月24日 12時) (
レス) @page50 id: df7b4f216a (このIDを非表示/違反報告)
葉琥(プロフ) - 完結おめでとうございます。信じてもらえないかもしれませんが自分も一回幽体離脱したことがあって、その時、夢主ちゃんと同じような体験があってこんな偶然あるんだな〜っと思いながら読んでましたｗ (2020年9月5日 23時) (レス) id: b0d47f7052 (このIDを非表示/違反報告)
なつみ - 完結？おめでとうございます！！さとみくんが出てきた所で一人でずっとつぼってましたwお話面白い部分もあり、切ない部分もあり、すごく面白かったです！ありがとうございました！ (2020年3月29日 0時) (レス) id: d37bac9867 (このIDを非表示/違反報告)
るな(プロフ) - お疲れ様でした！！すごく面白かったです！！ (2020年3月28日 17時) (レス) id: e38bb1f61d (このIDを非表示/違反報告)
詩織-siori‐ - すごくおもしろかったです。意外性のある作品だったので先が読めなくてすごく楽しかったです。 (2020年3月28日 15時) (レス) id: 2a36034942 (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時：2020年2月28日 18時
