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「籤を開く前にひとつ聞いてくれたまえ谷崎君」
谷崎くんが籤を開こうとした時、不意に太宰が言った。
「何でしょう?」
こくりと首を傾げ谷崎くんは太宰を見た。
太宰は谷崎くんの目をじっと見つめたまま続ける。
「この調子では私が最下位に間違いはないだろう。これも日頃の放埓のツケかもしれないね。だからここは腹を括って、人生に絶望して爆弾を抱え皆と一緒に楽しく無理心中する男の筋書きを考えることにするよ。それで___ひとつ頼みがあるのだが」
一息につらつらと言葉を並べた太宰は一呼吸置きナオミちゃんへと視線を向ける。
その視線を追ってナオミちゃんをチラリと見た谷崎くんは「頼み?」と太宰に問う。
太宰は頷き答える。
「爆弾魔と云えば立てこもり。立てこもりと云えば人質だ。できるだけ可憐で抵抗力がなく、外見からして『おお人質っぽい』と思えるような人材が欲しい。そこで___君の妹君を人質役に抜擢したい。お願いできないだろうか」
ナオミちゃんは何故か驚きの表情は無く、うっとりした表情で谷崎くんを見つめ、頬に手を当てた。
「私でよろしければ」
ナオミちゃんの一言を聞き、谷崎くんは「まあ___ナオミが善いなら」と曖昧に頷く。
なぜか谷崎くんを見つめ続けているナオミちゃんを不審がり与謝野さんと国木田さんの表情が少し訝しむ様な表情に変わる。
そして太宰は言った。
「それは善かった。さあ、籤を開き給え谷崎君。栄光の数字が君を待っている」
言い終えた太宰は谷崎くんを見て___うっすらと笑った。
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