letter*06 ページ8
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それは遠い遠い過去。"彼ら"と彼女が初めて出会った頃のお話し。
ブーゲンビリアとして、将来を担う後継者を残すこと。それもまたこの家に生まれた者としての勤め。
陸のブーゲンビリア、海原のウィスタリア。
そううたわれた両家はここライデンシャフトリヒの地で名を馳せ、影響力もまた均衡。
となれば、この両家の間に縁談が持ち上がるのもまた必然だったのかもしれない。
ブーゲンビリアの長男である兄の元へと舞い込んだウィスタリア家、令嬢との縁談は士官学校に入り間もないギルベルトの元へと届くこととなる。
それも仕方がない。当の兄が家を出て自身の道を突き進んでいる。
はっきりといえば絶縁状態にも等しい関係性だなんて公言できない以上、弟であるギルベルトが務めを果たさなければならないことは言うまでもなく。
彼は実に気が重かった。
名家の令嬢が相手となれば気遣うことも普段の何倍にも膨れ上がる。
失礼を働けば、今後の関係に影響があるかもしれないからだ。
そんな重い足取りを中心街から少し離れた喫茶店へと向け、溜息を1つ。
会ったらなにを話すべきだろう。
最近の流行か。
それとも、女性の喜びそうな称賛の声か。
それとも。
ギルベルトは少しでもこのときを円満に終わらせることを第一に置いていた。
この見合いはある種、任務のようなものだったからだ。
如何に問題を起こさず、かつ、彼女が自分に関心を向けないよう振る舞うか。
その1つにすべてがかかっていた。
まるで、戦場へと足を踏み入れるような緊張と不安を胸にノブへと手を伸ばす。
そうして初めて目にした彼女は、テーブルに肘をつき退屈そうに外の景色を見つめていた。
漆黒の髪に海色の瞳を持つ女性。
一目見たそのときから彼女の世界に落ちるようなそんな不思議な感覚に駆られたことを今でも覚えている。
そんな彼女からの最初のひとことは男を動揺させるには十分すぎた。
「わざわざご苦労なことね」
外の天候は雨。
だが、ここへ来たことを労われているわけではないことは彼女の声色からすぐに理解できた。
今、自分は皮肉を言われているのだ、と。
「そのような態度を取られてしまうようなことを私は貴方にしてしまったのでしょうか」
まずは状況確認。
女性の心は移ろいやすいと聞いたためだ。
「全く良く回る口だこと。見た目によらず面の皮は随分と厚いようね」
雨音が一層、大きく聞こえる気がした。
一体この女性は何者なのだろうか。
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湊(プロフ) - 華蓮さん» 初めまして。ご愛読頂きありがとうございます。こちらこそ素敵なお言葉をいただいてしまい頭が上がりません。サイドストーリーもぼちぼちあげようかと考えておりますので暖かく見守っていただけましたら幸いです。コメントいただきありがとうございました! (2020年10月13日 12時) (レス) id: 83bbd53189 (このIDを非表示/違反報告)
華蓮(プロフ) - 初めまして。連載お疲れ様でした。毎回、更新を首を長くして待っていました。もし、サイドストーリーをお書きになるのでしたら、楽しみにしています。本当に素敵で、大好きな物語でした。ありがとうございました。 (2020年10月12日 21時) (レス) id: d2c438ab67 (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - kさん» 初めまして。こちらこそ本当に本当にありがとうございます。こちらこそ本当に嬉しくて言葉ではいい表せないくらいに幸せだと感じています。もう時効だと思うんです。だからやっぱり彼にも幸せになってもらいたいなって。ありがとうございます。 (2020年10月11日 10時) (レス) id: 83bbd53189 (このIDを非表示/違反報告)
k - 本当にありがとうございます…どうしても読みたかったディートフリートの話を読ませていただけることが嬉しくて溜まりません。綺麗で素敵な言葉の綴り方が本当に大好きです。この場では感情が収まりきりません。本当に大好きです。更新心から楽しみにしております。 (2020年10月11日 9時) (レス) id: 5205b065eb (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - Rioさん» はじめまして。素敵なご感想ありがとうございます。とても嬉しいです。完全なる趣味小説でして誰にも見向きもされないかもなと筆をとったので本当に心強いです。ディートフリートは誤解されがちですから。少しでも彼を救えたらという思いで頑張らせていただきますね。 (2020年10月10日 8時) (レス) id: ab18fde111 (このIDを非表示/違反報告)
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