"あいしてる"をお前に。

St.Valentine*-08 ページ33

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　長い夜を超え、迎えた朝はこの地を初めて訪れた日のことを想起させる。早朝特有の肌寒さと微かに掠める白椿の香り。ドロッセル特有の風土を受けるも、彼女が窓辺に立つようなことはない。

その先にある景色は、この先交わることのない道だから。
けれど、誇り高く。そしてなによりも心優しい騎士への尊敬を忘れることはなく。
いつかきっと、大切な友人として再会できることを信じ、一礼を。


誰が目にしたわけでもなく。
けれどそれは深く美しいカーテシー。


別れを意味するものではなく、新たなはじまりを意味するものとなりますように―。




◆



　彼等がライデンへと立ち、まもなくこの地、ドロッセル王国に久方ぶりに帰国した"姫"がひとり。悪戯心を持つのは相変わらずか、知らせを受けることなく現れたかつての主に騎士は目を丸くする。

フリューゲル王国へと嫁いだはずの我が国のたったひとりの姫、"シャルロッテ・エーベルフレイヤ・ドロッセル"。
そしてその名はドロッセルからフリューゲルへと変化を遂げ、彼女を包むものも少し大人びたように感じる。

彼女の手をとり、跪く。
そんな変わらぬ騎士の姿に少し困ったように笑ってみせる。それだけで十分に悟らせてしまう。
それほどに彼等は長い時を重ねてきたのだろう。


「久しぶりね。クラウス。」

「お目にかかれて光栄です、殿下」


「それだけ？こうして黙って帰ってくれば小言の１つくらいは覚悟していたのに、なんだか拍子抜けね」

「御冗談を。殿下はこの地を離れられた御身。そのようなこと、私にできるはずもありません」


「傷心の騎士を慰めにきてあげたのになんて冷たいのかしら」


隣に寄り添う温度に涙がこぼれそうになる。
いつから私はこんなにも弱くなってしまったのだろう。


「今日だけは肩を貸してあげてもいいわ。光栄に思いなさい」


言葉がなくとも共有できるものがそこにある。
ほんの少しだけ。その身に預け、想いを消化させる。別れを告げなければならない。
次に再会した時には、大切な友人として迎えられるように―。


白椿の庭の一隅。
そこに咲くウィスタリアはドライフラワーに加工され、枯花の絨毯のように。
色褪せぬ思い出、そしてそれは友好の証として。

ホワイトとヴァイオレットのコントラストは美しく、幻想的に映るだろう。





end.

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