5話 ページ5
「…よい、しょっ…と…」
左馬刻さんは私に近づいてきて、私を抱える。
俗に言うお姫様だっこというものだろう。
『えっ…!?あのっ、自分で歩け…』
「うるせぇよ、俺様がわざわざ運んでやってるんだからありがたく思え。」
『は、はい…』
生憎私はまともに食事も取れていないせいで一般的な女の子よりも体重は軽いはずだ。
にしても、重いことには変わらないはずなのに左馬刻さんは苦悶の表情を浮かべることもなく、高そうなタワーマンションのエントランスからエレベーターに乗りこむ。
「…そういえば、お前。名前は?」
エレベーターの中での沈黙を破ったのは左馬刻さんだった。下から見ても端正な顔立ちをしてるのはちょっと、いやだいぶ羨ましい。
『…Aです。A A。』
「…そうか、いい名前じゃねぇか。」
左馬刻さんがそう言うと、ちょうどいいタイミングでエレベーターの扉が開く。そういえば普通に思っていたが、ここは最上階だ。
名前について褒められるのはすごく嬉しかった。
私の名前は母がつけてくれたから。
手にはまだ、人の肌を破る感覚が残っている。
左馬刻さんはドアの鍵を私に開けさせると、私をマンションとは思えないほど広く、生活感のないリビングのソファに置いてどこかに消える。
私はしばらくこの私が住んでいたアパートの数倍はありそうな広いリビングに取り残された。
部屋には写真などその人を表すようなものは何もない。ただ無機質な大きなテレビ、黒いテーブル、黒いソファがあるだけ。
白い壁と黒い家具のコントラストが美しいと思えた。
なぜ左馬刻さんは、
私にここまでしてくれるのだろうか。
ふと疑問に思った。
「おい、これで応急処置くらいしとけ。」
『わっ…!』
背後から突然声が聞こえて、驚いてしまった。
左馬刻さんは何ビビってんだと呆れながら、その手に持っていた薬箱を私に渡した。
『ありがとうございます…。』
私はそれを受け取って、金具を外して箱を開ける。
薬箱特有の匂いが私の鼻腔をくすぐる。
左馬刻さんは私の正面のソファに、足を組んで座る。中々のヘビースモーカーなのか、ポケットからタバコを取り出し、火を付けた。
とりあえず、消毒液と絆創膏を取り出す。
私は靴下を下げた。
痣だらけで、お世辞にも綺麗とは言えない足。
怪我をみると、そこは思ったよりも酷かった。
前に足の爪が剥がされたところからまた血が出ていた。
消毒液が沁みる。
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夕妃(プロフ) - Thistle*さん» コメントありがとうございます。合歓ちゃん可愛く書けるようにがんばります(*^^*) (2019年3月29日 17時) (レス) id: 9a4bb61595 (このIDを非表示/違反報告)
Thistle* - ねむちゃん可愛い(#´∀`) (2019年3月21日 23時) (レス) id: d67f03efe8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花野 | 作成日時:2019年1月19日 0時