返りそこなった俺が嗤う完結編 (ページ5)

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智

晩のことだった。
珍しく翔くんから晩酌に誘われた。

めったにないことだから二つ返事で了承して、翔くんの好きそうなつまみを買いあさった。
張り切りすぎたみたいで、こんな食えないって笑われちったけど。

鼻歌交じりに準備していたら他の弟たちからは冷ややかな目線を貰ってしまった。
別に良いんだぃ!ふんっ!

夕飯を食べてお風呂も入って、兄弟達に生暖かい眼差しと共におやすみと告げられた後、いそいそとテーブルにつまみと酒を並べて待つ。

暫くすると苦笑いを浮かべた翔くんがリビングにやって来た。

翔「張り切りすぎじゃない?」

智「だって滅多にねぇじゃん。翔くんから誘ってくれるなんてさ。」

クスクスと弟達を起こさないように声を押し殺して翔くんが笑う。
あぁ、良いなぁ。ここは幸せに満ちている。

その後は弟達の話で盛り上がる。なんせ二人で親代わりになって育てて来たのだ。話のネタは山ほどある。
あいつらがいたら恥ずかしさで耳を塞いでただろう。

翔「小学校最後の授業参観に、俺らが行った時の双子の顔よ!あれは最高だったなぁ…。」

智「カッチリスーツで行ったからな。目をこぼれ落ちそうなくらいまん丸にしてたなぁ、あいつら。」

お酒も進み、つまみは…ちょっと多すぎて半分以上残っちゃったけど。(あ、貝のお刺身は完食してた。)

そしたら急に翔くんがあの日の話を始めた。

翔「ねぇ、兄さん。…俺が鬼になった理由覚えてる?」

どきんっと鼓動が跳ね上がる。

そっと伺うように翔くんを見ると口もとに薄く笑みを浮かべた翔くんと目があった。

それを見てゆっくりと息を吐いて答える。

智「みんなと一緒に居たかったから…だっけ?」

翔「…うん、そう。…それとね、守られてるばかりは嫌だったから。みんなの能力に守られてばかりで、そんな自分が情けなかったんだ。最初はみんなに守られながら一人老いていくくらいならさっさと死んでしまった方が良いって思ってた。…でも。」

智「鬼…。」

翔「うん。…俺はね、鬼になったこと後悔してないよ。ちょっと面倒なこともあるけど、それ以上にみんなと対等にそして一緒に生きていけることが何より嬉しいから…。」

改めて聞く翔くんの気持ち。愛されてんな、俺ら。

翔「…それだけ。どうしてももう一度兄さんに伝えたかったんだ。鬼になることを選んだ理由を。」

そう言った後はまるで何事も無かったかの様に兄弟の話へと戻った。

暖かく、幸せで、気づいたら俺はそのまま寝てしまった。