検索窓
今日:4 hit、昨日:1 hit、合計:3,152 hit

ページ9

「っくしゅん!!」

「A、大丈夫?」

「なんとか……」


雨の中を走ること約数分、とあるマンションのポーチに飛び込んだ私は、あまりの寒さにずびりと鼻をすすってしまった。


「風邪引くから、中入れよ」

「でもここって」

「オレん家、この上なんだよ」

「へ……」


いいから早くと急かされて、閉まりかけたエレベーターに飛び乗った。二人分の水滴の垂れたフローリングが、鉄の扉に阻まれて見えなくなるが、一虎くんの長い前髪からは、まだ水が滴っている。

その横顔から目が離せないまま、今言われた言葉が惚けた頭にロールした。


(一虎くんの、いえ……?)



****



ちゃぷん、と浴槽に波紋が広がる。

透明なお湯の中でぼやけた足を伸ばしていると、どうも落ち着かなくなって、思わず膝を胸まで引き寄せた。


(い、家にお邪魔してしまったぁあ……)


何を隠そう、ここは羽宮家の浴槽なのである。


一虎くんの家に着いてからというもの、事態は彼の意のままに流れていった。

まず、びしょ濡れになった私を玄関にいれタオルを押し付けると、自分の体をざっくりと拭いただけで奥に入った。何かと思って尋ねると、お風呂を沸かしてくれたという。何だ、この生活力は。

そんでもって、先に入ればと素っ気ないものの譲ってくれる優しさ。何だこのスパダリ感!!


(相手が不良な分、女子的になんか負けた感が半端ない〜っ!!)


いや、確かに地の利とかありましたけど。学校から家まで明らかに一虎くんの方が近かったのは確かなんですけどこのポジションはせめて逆であって欲しかった!


(せっかく気を遣ってくれてるのに、こんなこと思っても失礼か……)


そう思って、また肩まで湯に浸かり直すが、ちょっとした自尊心は簡単には大人しくなってくれなかった。ううぅ……


「Aー?」

「は、はいっ!!」

「着替えここに置いとくから」

「ありがとうございます……」


すりガラス越しに話しかけられて、ドキッとするも、すぐに脱衣所のドアのしまる音が聞こえて、力が抜けた。もぉおお、心臓に悪すぎるよぉお

終わり ログインすれば
この作者の新作が読める(完全無料)


←▽



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (21 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
132人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ふゆう | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2022年5月8日 15時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。