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「っくしゅん!!」
「A、大丈夫?」
「なんとか……」
雨の中を走ること約数分、とあるマンションのポーチに飛び込んだ私は、あまりの寒さにずびりと鼻をすすってしまった。
「風邪引くから、中入れよ」
「でもここって」
「オレん家、この上なんだよ」
「へ……」
いいから早くと急かされて、閉まりかけたエレベーターに飛び乗った。二人分の水滴の垂れたフローリングが、鉄の扉に阻まれて見えなくなるが、一虎くんの長い前髪からは、まだ水が滴っている。
その横顔から目が離せないまま、今言われた言葉が惚けた頭にロールした。
(一虎くんの、いえ……?)
****
ちゃぷん、と浴槽に波紋が広がる。
透明なお湯の中でぼやけた足を伸ばしていると、どうも落ち着かなくなって、思わず膝を胸まで引き寄せた。
(い、家にお邪魔してしまったぁあ……)
何を隠そう、ここは羽宮家の浴槽なのである。
一虎くんの家に着いてからというもの、事態は彼の意のままに流れていった。
まず、びしょ濡れになった私を玄関にいれタオルを押し付けると、自分の体をざっくりと拭いただけで奥に入った。何かと思って尋ねると、お風呂を沸かしてくれたという。何だ、この生活力は。
そんでもって、先に入ればと素っ気ないものの譲ってくれる優しさ。何だこのスパダリ感!!
(相手が不良な分、女子的になんか負けた感が半端ない〜っ!!)
いや、確かに地の利とかありましたけど。学校から家まで明らかに一虎くんの方が近かったのは確かなんですけどこのポジションはせめて逆であって欲しかった!
(せっかく気を遣ってくれてるのに、こんなこと思っても失礼か……)
そう思って、また肩まで湯に浸かり直すが、ちょっとした自尊心は簡単には大人しくなってくれなかった。ううぅ……
「Aー?」
「は、はいっ!!」
「着替えここに置いとくから」
「ありがとうございます……」
すりガラス越しに話しかけられて、ドキッとするも、すぐに脱衣所のドアのしまる音が聞こえて、力が抜けた。もぉおお、心臓に悪すぎるよぉお
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