アトリエに残された桜 (ページ9)

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一瞬、アトリエの中に翔くんを招き入れることは俺の核心に触れるような面持ちがしたが、どこか翔くんに期待して中へ招き入れる。

『どうぞ、全然綺麗にしてないけど』

「全然良いよ、お邪魔しまーす。わぁ凄い」

翔くんの目に飛び込んできたのはきっと自分でもおぞましいと思うほどの絵の具の数々。筆やパレットも散乱していてお世辞でも綺麗なんて言えない。

「なんか、絵描きって感じだね」

『そう？』

翔くんはキョロキョロと部屋を見渡して言った。そして今更気付いた。翔くんを此処に招いて何をするんだ…？未だにキョロキョロして部屋を見て回る翔くんに声をかける。

『何も面白いものなんか無いでしょ』

「いやいや、全っ然そんなことない！見ててすごく楽しい！！」

即座に全力で否定した翔くんに少し圧倒される。
俺には分からないが、翔くんの中では此処は宝の山か何からしい。現に今もキラキラと瞳を輝かせている。

その瞳はまるで子供のようであり、その無邪気な横顔に見惚れてしまう。翔くんが楽しそうにしてくれるならこんな汚い部屋でも悪くないのかもしれないと少しだけ思ってしまった。

わー、とよく飽きもせずに部屋の中を見続ける翔くんを真似て俺も改めて部屋の中を見てみる。

やっぱ面白くない。

ふと、朝奥に置いてきぼりにした真っ白なキャンバスが目に入った。すると、色々な事が思い出されてしまって目を逸らす。急に現実に引き戻される感覚がして思わず顔を顰めた。

「ねぇ、智くんこれって何？」

翔くんが問いかけた。我に返った俺は何も無かった風を装って答える。

あーそれはね、じゃあこれは？こっちのは？それは確か、、これってなんの時の？これってもしかして、、、

次々に繰り出される翔くんの問いに必死に追いついて答えていく。奥に置いてあるキャンバスの存在をすぐに忘れて。

翔くんの質問タイムが終わった頃には少々疲弊してしまっていて、作品を描いた当時を思い出す事がこんなにも労力を消耗するのかと思った。これが少し前ならなんて事はない時間だったのかな…と考える。

「ごめんね、質問ばっかしちゃって」

翔くんの言葉でこのネガティブ思考を振り払い、『全然構わないよ』と笑って誤魔化す。顔が引き攣っていない事を祈る。

「ん？あれは…？」

その時、翔くんが俺の核心に触れた。