アトリエに残された桜 (ページ37)

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翔くんの視線が突き刺さるようにこちらを向いているのが、振り向かなくてもよく分かる。大きな期待とプレッシャーをかけられて妙な緊張感を持った。

彼がやりたかった奴、と指定した台の中にはふわふわした様々な種類の犬のマスコットキーホルダーがいた。アームは先程のような2本のツメのありがちな奴ではなく、小さいタイプの3本ヅメだった。

ロボットのようなコントローラーを左右前後関係なく自在に動かすと、手元では59,58,57、とカウントダウンが始まり、余計に俺を焦らせる。ガチャガチャとどれを取ろうかも決まらずに動かしてみたが、どれを狙えば取れそうか全く分からなかった。

手元のカウントダウンが30を切ろうとしている。流石にそろそろ決めないと強制的にアームが降りてしまう。でも、どれだったら一発で取れる？こんなに台と睨めっこしている人はなかなかいないだろうと言うくらい顔が台に近づいて意味もなく睨む。

うーーーーーーーーーーーん………ここら辺じゃね？

結局テキトーにアームを動かしてテキトーな位置に決定した。

ピロピロピーンなんて、軽快な音が鳴ってアームが降りていく。同時に、BGM的な音楽が流れていたことにも気づいた。

景品は3個が前に出ていて、内2つが柴犬、残りの1つがトイプードルだったが、俺がアームを落としたのは柴犬が2つ並んだ丁度間だった。

間、となれば取ることはちょっと難しいんじゃないかと思い、翔くんの期待に応えられないな、と諦めていた。

しかし。

奇跡的に2本の爪が柴犬の頭に引っ掛かり、頭を掴んだ。そしてまさかのもう一本の爪が柴犬の頭から伸びたキーホルダーの紐に入り、アームが上がると2匹の柴犬が釣れていた。

「『ああっ！」』

同時に声を上げた俺達はそのまま取り出し口まで行ってくれ！と念を込めて見送る。こんなに上手くいってていいのか不安になるくらい上手く、取り出し口へと2匹の柴犬は放り込まれた。

『やったあ！！』

「すごい！智くん！！」

子供みたいに2人でキャッキャッと騒ぎながら落ちた2つの柴犬を取り出して翔くんへ渡した。

『はい、どーぞ』

「ありがとう、智くん」

受け取った翔くんは何か迷うように2つを見つめている。

『どしたの？』

尋ねると、うん、と迷いが消えたように顔を上げ、俺に1つを差し出した。

「2つあるし、あげる！お揃いだよ」