毒。 ページ17
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｢あの、本当にありがとうございました。態々家まで送ってもらってすみません｣
玄関の前で、頭を下げる。未だ帰っていないだろう親は、案の定いないようで。家の明かりはついていない。
ふわり、と頭に乗る重み。
｢…それこそ、態々頭下げることやないやろ。にしても、サラサラやなあ、髪｣
黒髪ショートカットということで、少しは気をつかっている自分の髪を褒められ、悪い気はしなかった。
北先輩はどうやらお気に召したようで、その細い指を何度も髪に通しては、毛先を掬う、を繰り返していた。
｢濡烏。知っとるか？｣
｢嗚呼、はい。濡れた烏の羽のような、黒く艶やかで健康的。理想の女性の髪を体現したような色、と前に本で読みました｣
…まあ、この解説も、以前本で読んだときに分からなくて調べたものをそっくりそのまま覚えたものなんだけど。
｢せや。それに似とる｣
｢…え？｣
｢綺麗な髪、いうことや｣
頭を上げても、髪を撫でることをやめない北先輩の口から出たのは、私に似合わない言葉で。確かに気を遣ってはいたけど、でも。濡烏、と言われるほどの髪質という訳でも、色という訳でもないのに。
｢そんなわけ｣
｢ないわけないやろ。そんなわけある。…綺麗な髪や｣
熱を含む視線が、私の視線と交わるのが分かった。…なんだろう、この感じ。
この、変な雰囲気は。
一体、なんだっていうんだ。
私の髪を撫でる手が、ピタリと止まった。全く動かない北先輩の、見据えるような瞳が、私の瞳を捉える。
端正な顔立ちが静止して、美しい水彩画のように目の前にある。
…え、目の前？
いつの間にか、合わされていた額。前額部が重なり合う。
な、んで。
なんで、目の前に北先輩の目があるの。
なんで、私は、何もせずに北先輩に額を合わせられているの。
なんで、北先輩は、私に額を合わせたの。
全部のなんでが、分からないまま地面に吸い込まれる。
何を、どうするべきなのかも知らずに、何も出来ず、立ち尽くす。
｢…なあ、雨宮｣
｢…なん、ですか｣
震える声。嫌だ、なんだろう、なんか、嫌だ。
｢俺が、角名の代わり、やったろか？｣
意味がわからなかった。
街灯が、北先輩の髪を照らす。
細められた瞳孔が、私の目を、射抜く。
｢…え？｣
｢角名の代わりに、俺が、お前を愛したろか｣
"私は、ハルよりも愛されることを望みます。"
嗚呼。
過去の自分が、憎い。
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はるか(プロフ) - この作品のことではないんですがブスの愛で方はもう公開されないんでしょうか？ (2023年2月25日 13時) (
レス) id: aa3e2fb3e0 (このIDを非表示/違反報告)
サラミ - なんかもう…本当に胸が痛かったです…なんでそんなに感動する文章かけるの…？という感じでした。辛いし、気持ちが凄くわかるし、頭がうああってなって(語彙力)気づいたら大号泣していました。本当に素敵なお話をありがとうございました。 (2023年1月18日 22時) (レス) @page50 id: 82adb6822c (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 北さんもいい……！ めちゃくちゃにやけました！ (2022年10月23日 0時) (レス) @page50 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
お布団 - 何回ワシをにやけさせんねん！！ (2021年11月28日 10時) (レス) @page50 id: e77bb3532f (このIDを非表示/違反報告)
リンネ(プロフ) - 私、恋愛をした事なくて恋愛小説をどこか違う世界のものとして読んでました。でもこの小説は、感情移入してしまって雨宮の｢自分が嫌い｣という感情が私と重なって泣いてしまいました。あなたの言葉で救われた気がします。ありがとうございます。 (2021年7月5日 2時) (レス) id: 2b6f27f6e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お水。
| 作成日時：2019年8月16日 11時
