狐目の光る。 ページ18
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「どういう…こと、ですか」
"角名の代わりに、俺が、お前を愛したろか。"
いや、自覚はあったのかもしれない。思い当たる節が無いでもない。
でも。
「…そのまんまや」
まさか。
"…角名くん。"
あのときの私の発言が、今の北先輩の発言を促したのだとしたら。嗚呼、考えただけで背筋が凍る。
「角名くんの代わりって、なんですか」
どうして、北先輩がそれをしなければならないんですか。それをしてなんの意味があるんですか。言いたいことは山ほどあった。
でも。
あまりに近い北先輩の表情が、それを言わせてはくれなかった。
「…せやから、そのまんま言うとるやろ」
だから、そうじゃなくて、違う、でも、嗚呼、もう。分からない、理解が追いつかない。助けてくれ、誰か、今のこの状況を説明して欲しい。
そのまんまということは、私にとっての角名くんということで。私にとっての角名くんは、北先輩には絶対に重ねてはいけない人で。
「…まさか、私に、北先輩を利用しろって言ってるんですか」
――角名くんのように。
好きな人を好きでいるために、代役として北先輩を指名しろと言うのか。
「そこまで悪いことをお前に望んどる訳やない。只、お前が辛いとき、どうしても角名を欲してまうんやったら。俺が、角名の代わりにお前の望みを叶えたろかいうことや」
だから。
だから、それは。
それじゃあ、まるで。
「好きな人に振り向いて貰えないから、辛いときは北先輩を使って自分の心を補強しろ、ってことですか…?北先輩に、好きな人を重ねて、縋れって、ことですか…?」
目の前が、絶望の色に染まる。
そんな、そんなこと出来るわけがない。
「北先輩が、角名くんの代わりになる、ってことですか?」
背格好もまるで違う。でも確かに、私は屋上扉の前で北先輩に角名くんを重ねた。あのときのように、幻想の角名くんに縋って、北先輩を傷付けろ、と?
嗚呼、あまりに、酷い話だ。
それを北先輩の口から出させてしまった私も、あまりに酷い人間だ。
「せやから、そう言うとるやろ。…俺は、お前の力になりたい」
違う。
違うんです、北先輩。
こんな、狂ったような提案。受け入れる訳にはいかないんです。
でも。
心のどこかで、私は、それに甘んじようとしているんです。
それが、そんな私こそが、一番怖い。ヒクリと、下瞼が動く。
…嗚呼。
北先輩の目が、見開かれる。
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はるか(プロフ) - この作品のことではないんですがブスの愛で方はもう公開されないんでしょうか? (2023年2月25日 13時) (レス) id: aa3e2fb3e0 (このIDを非表示/違反報告)
サラミ - なんかもう…本当に胸が痛かったです…なんでそんなに感動する文章かけるの…?という感じでした。辛いし、気持ちが凄くわかるし、頭がうああってなって(語彙力)気づいたら大号泣していました。本当に素敵なお話をありがとうございました。 (2023年1月18日 22時) (レス) @page50 id: 82adb6822c (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 北さんもいい……! めちゃくちゃにやけました! (2022年10月23日 0時) (レス) @page50 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
お布団 - 何回ワシをにやけさせんねん!! (2021年11月28日 10時) (レス) @page50 id: e77bb3532f (このIDを非表示/違反報告)
リンネ(プロフ) - 私、恋愛をした事なくて恋愛小説をどこか違う世界のものとして読んでました。でもこの小説は、感情移入してしまって雨宮の「自分が嫌い」という感情が私と重なって泣いてしまいました。あなたの言葉で救われた気がします。ありがとうございます。 (2021年7月5日 2時) (レス) id: 2b6f27f6e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お水。 | 作成日時:2019年8月16日 11時