へたくそ。 ページ13
.
宮侑side
｢…何しとるん、ハル｣
泣き声が聞こえた。
先生に呼び出され、職員室まで足を運んでいた帰り。
筆箱を忘れたことに気付き、急いで廊下を走っていたら。胸を高鳴らせる、あの声が聞こえた。
｢…あ、つむ｣
苦しそうに俺の名前を呼ぶから。どうにも、耐えられんかったんや。明らかに泣いた痕跡。未だ震えている唇が、それを決定的なものとした。
"…角名が、ハルにフラれたらしい。"
ハルが泣く原因を作ったのは、多分俺で。多少の罪悪感はあれど、雨宮はやっと本心をハルに言えたんか、なんていう安心感に似た感情もあった気がした。
その本心が、どれだけハルを苦しめるものでも。向き合うことすら出来んかった現状が、今目の前に座っとるとしても。
雨宮の悲痛な叫びを、この教室で、やっと、相手にぶちまけられたんや、いうことが、何より目の奥を刺激した。
｢…なあ、ハル｣
すまん、雨宮。
"……なら、私がしてきたことって、一体、なんだったのかな。"
｢追い討ちかけるようであれなんやけどさ。…ちょっと、一緒に帰らんか。伝えたいこと、あんねん｣
お前がしてきたことは、しっかりと意味を持つ行動で。それを促しとったのも、俺の、不甲斐ないだらけた精神ゆえに。
"必死に、二人をくっつけようとしたのに。今更別れるって、何様？。"
…堪忍な、雨宮。
｢…おん、わかった｣
嗄れた声。必死に絞り出したような声は、俺の鼓膜を震わせる。同時に、今すぐにでも抱き締めてやりたい、そんな、どうしようもない感情が底から湧き上がってくる。
ズルズルと引きずる、受け入れられる筈もない好意は、おもりにしかならんかった。
…嗚呼、すまん、雨宮。お前が折角、俺の体たらくな相談を受けて、折角、俺にチャンスを与えてくれはったのに。
俺は、それでも、俺は。
｢ほな、行こか｣
唇を噛む。視界の端に、いつも雨宮が背負ってくる鞄を見つけて、引っ掴んで持っていく。
何の意味もなかった。
でも。
何故か、この場にいない彼奴に、傍におって欲しかった。自分にとってのケジメを付ける。そんな瞬間を、彼奴に見守っとって欲しかった。
背中を、押して欲しかった。
いつだって心の拠り所になってくれた彼奴を、また、どこかで欲しとった。
それでも、持っていく訳にはいかんから、教室前に置いて、下駄箱に向かう。
…ドンッ。
｢…ハ、ル｣
嗚呼、きっと神様の蛮行。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1277人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はるか(プロフ) - この作品のことではないんですがブスの愛で方はもう公開されないんでしょうか？ (2023年2月25日 13時) (
レス) id: aa3e2fb3e0 (このIDを非表示/違反報告)
サラミ - なんかもう…本当に胸が痛かったです…なんでそんなに感動する文章かけるの…？という感じでした。辛いし、気持ちが凄くわかるし、頭がうああってなって(語彙力)気づいたら大号泣していました。本当に素敵なお話をありがとうございました。 (2023年1月18日 22時) (レス) @page50 id: 82adb6822c (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 北さんもいい……！ めちゃくちゃにやけました！ (2022年10月23日 0時) (レス) @page50 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
お布団 - 何回ワシをにやけさせんねん！！ (2021年11月28日 10時) (レス) @page50 id: e77bb3532f (このIDを非表示/違反報告)
リンネ(プロフ) - 私、恋愛をした事なくて恋愛小説をどこか違う世界のものとして読んでました。でもこの小説は、感情移入してしまって雨宮の｢自分が嫌い｣という感情が私と重なって泣いてしまいました。あなたの言葉で救われた気がします。ありがとうございます。 (2021年7月5日 2時) (レス) id: 2b6f27f6e1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お水。
| 作成日時：2019年8月16日 11時
