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「もう誰もおらんのかな」
ポツンとリビングに佇む背中に話しかけると、そうなもな、と抑揚のない返事が返ってくる。
コンセントを差してからコタツに潜り込んで、私はギュッと身を縮めた。思いのほか、寒い。
「ねえ、どないする?」
手持ち無沙汰にテレビのリモコンの電源ボタンを押す。
「どうもできんな」
黒い画面は、沈黙したまま。
「信介と私2人残して、みんなどこ行ってもうたんやろ」
「俺らも近いうちにいくやろな」
「私まだ死にたくないよ」
「贅沢ちゃうか」
リモコンを放り出して、ごろんと横になる。
沈黙。
「⋯⋯なあ信介」
「どした」
「私シアワセなんやろか」
「なんや急に」
「世界の終焉を信介と迎えるて⋯⋯大好きな人と一緒ってシアワセやろか」
信介はそろりと膝を折ると、私の前に正座をした。
その表情からは何も読み取れない。
「俺はシアワセやで」
「なんや、嬉しいなあ」
「そうか?」
「うん」
ようやく温まってきたコタツから上半身だけ抜け出して、信介の膝にすり寄る。
こうやって撫でてくれる大きな手が、その温もりが何よりも愛おしくて、
「死んだらもう会えないんやろか」
そんなことをポツリと口にする。
「そうかもな」
やっぱり信介は冷たい。
「知ってる?手があったかい人って心が冷たいん」
「ならAはかなり冷徹やな」
そう言いつつ信介は私の手を取る。
「⋯⋯私の手のほうが冷た」
突如。
私の右手を目の高さまで持ち上げて、信介はそのまま自分の唇で薬指に触れる。
「し、信介」
「嫌やった?」
すこしだけ不安げな色を瞳に浮かべて私の顔を覗き込んだ。
「え、嫌とかじゃなくて」
「なんや」
まっすぐな瞳は、いつだって全てを見通しそうに澄んでいる。
「⋯⋯やっぱり信介は心もあったかいね」
そう目を逸らすと、見透かしたような笑い声が軽やかに降って来た。
「せや、来世はAに出会えんかも知らんしな」
ポン、と背中を撫でられる。
「今世は結婚したかったわ」
「今からしちゃう?」
「ほんなら今のがプロポーズや」
「ええで、私は結婚しても」
「せんでも変わらんか」
ムッと信介を見上げると、彼はまだ穏やかな笑みを湛えていた。
膝から抜け出して、頭までコタツに潜り込む。
「なんでそういうこと言うん?」
「ええやんか」
「もう知らん」
コタツの布団が開いて、信介が私の隣に潜り込む。
「結婚してもせえへんでも、世界が終わるまで隣にいるんやし」
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ティラミルク(プロフ) - Decemberさん» 描いた情景が暗かったので、そこに少しでもと織り交ぜたささやかな幸せは私の理想の形でもあります。世界が終わるとしたら北さんとがいいなぁという妄想もたっぷり込めまして(笑)素敵だなんてもったいないお言葉!こちらこそ嬉しいコメントをありがとうございました。 (2020年5月14日 23時) (レス) id: c7232f3a98 (このIDを非表示/違反報告)
December(プロフ) - コメント失礼します。何だかホクホクしました(泣)「このまま永遠になりたい」って台詞すごく好きです!作者様、素敵な作品をありがとうございました! (2020年5月14日 16時) (レス) id: 8a83f8152c (このIDを非表示/違反報告)
ティラミルク(プロフ) - が―どれ―るさん» ありがとうございます(*^^*)相変わらず他人行儀なコメントですこと(笑) (2019年11月23日 15時) (レス) id: 9b0bde0b73 (このIDを非表示/違反報告)
が―どれ―る - なんだか、珍しい感じのするお話で驚きました。嫌いではありませんよ、こういったお話の進め方は。 (2019年11月19日 17時) (レス) id: 94b32e65aa (このIDを非表示/違反報告)
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