中原さんの黒帽子。【文豪ストレイドッグス】

黒帽子が十四つ ページ17

灰色の濃さが増した地面へ足を踏み出す。
傘の下から顔を上げると、くすんだ空がゆっくりと動いていくのが見えた。





強風が吹き荒れていた。
気難しい顔でパソコンのキーを打ち込んでいたAを気遣った太宰が彼女に早退を持ちかけ、其れに大人しく応じたAは、今こうして帰路を辿っているのだった。


徐ろに携帯を取り出して時刻を確認する。11時30分を少し過ぎたところ。腹が空く時間ではなく、普段ならパソコンと睨めっこするか仕事で外出しているAにとって、此の時間は実に憂鬱なものだった。


途中、公園の側にある池の水が増量していることに気づいた。暫く寄っていなかったので少々懐かしく思う。昔探偵社に入社仕立ての頃、仕事で人を追いかける途中に滑ってこの池に落下したことがあった。爆笑する太宰と口元をぴくぴくと動かしながらも平然を装う国木田の顔を思い出しながら、Aはそっと池に近寄った。


数年前は居なかった鯉が、優雅に泳いでいた。
彼女は、尾を翻しながら気持ち良さそうに動く其の姿をぼーっと見つめていた。


「……お前じゃないんだよなあ……」


また、強風が吹いた。
全身が何かに浸されるような冷たい感覚に包まれた。


〜・〜・〜・〜


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