中原さんの黒帽子。【文豪ストレイドッグス】

黒帽子が十一つ ページ12

いつに無く不機嫌な表情を見せ、Aは出来るだけ中原を視界に入れぬように動く。
中原も同じで、Aに背を向けぷいと顔を逸らした。


険悪な空気の2人の間に立っていた国木田は、理由も無く眼鏡を弄りながら敦と芥川を見た。
敦が飛びかかれば芥川が避け、芥川が外套を操れば敦が避け、の状況である戦いは「終わり」の三文字を知らないようだった。


国木田は前方の窓に視線を注がせる。騒ぎを聞いて駆けつけたのだろう野次馬共は少しずつ増えている様だった。
何やなんやと顔を覗かせる彼等。スマートフォン端末をこちらに向ける者もいる。
早く事態を治めなければならない。……その方法が分かれば苦労しないのだが。





「本当に最悪。最悪過ぎる」
「此方の台詞だ寸胴」


お互い極力意識しない様にしていたのにも関わらず、2人は何故か言い合いになっていた。


倉庫の隅の方。彼処では大乱闘が繰り広げられている最中だが、そんなもの関係ない。今は目の前の屑を倒すのみ。2人の目はそう物語っていた。


「誰が寸胴ですか。貴方こそ縦に行くべき肉が横に付いてしまったんじゃないですか？」
「俺の肉は筋肉になるんだよ。横になんか付かねェ」


Aはさらに焦燥した。


「筋肉質って自分で言います？」
「そんなに信じられないなら触ってみるか」


嫌ですよ、とAは嫌悪感を剥き出しにした口調で言い放った。中原は若干傷付く。
Aは深く溜め息をつき、壁に背をもたれた。

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