ガラスの瓶につぶされて

花屋の日常・4 ページ4

　本当に…なにを考えてるんだろう。太輔は。


　半年間も毎日毎日、忘れることなくオレなんかに薔薇をくれる、不思議な人。イケメンだし女性ファンも多いし、モテ慣れてそうだし…最初は、絶対からかわれてるんだと思ってた。
　だけど、さすがにこんなに長く続くと、もしかして本気でオレを、なんて思ってしまいそうになる。でも、もしそうだったとしても、彼の行為を素直に信じることは…やっぱり難しい。

　それは、太輔の言動や行動に問題があるんじゃない。全部の原因は、オレにある。

　太輔がオレを本気で好きな証拠として、納得のいく理由がないからだ。



　オレ達の出会いは、半年前。いつも藤ヶ谷さんのところに配達に行っていた子が急な事情でバイトを辞めて、代わりにオレが配達することになった日のことだった。


　その日は太輔の家じゃなくて、駅前のデパートの飾りつけ用だったんだけど…そこで初めて自己紹介して、お花を届けたついでに仕事も見学させてもらって…その帰りに、いきなり告白された。


　びっくりしすぎて、信じられなさすぎて、おまけに整った顔面をドアップで見せられながら手を握られたものだから頭がパニックになってしまった。だから、その時オレが何を言ったかはまったく覚えてない。

　ただ、とりあえずお友達から…と言うことでその日は一旦引き下がってもらって。その時に太輔から
『じゃあ来週遊びに行こう』
　って言われたのと
『気持ちを伝え続けるのは構わない？』
　って聞かれて、それに頷いたのは覚えてる。

　それ以来、休みの日に太輔と遊んだり互いの家に泊まったりするようになったのと…毎日の薔薇のプレゼントが始まったのだ。


(本当に…オレの何が太輔の心に刺さったんだろう？)


　太輔に告白された日から、毎日毎日考えてる。
　考えてるけど、でも、いまだにヒントすら浮かばない。全然分からない。

　あんなに有名で、女性人気もすごくて、仕事も一流でルックスも完璧なのに。なんで、正反対のオレのことなんかに興味を持つんだろう。ヒマワリとコケみたいなものなのに。


「あっ、横尾さん。休憩終わったら配達行ってきてねー。藤ヶ谷さんのとこ」

　千賀の声にハッとして、カレンダーを確認する。
　そうか、今日は火曜日。太輔の教室が開いてる日だ。

　オレが太輔のチャイムを押したときに彼がいつも見せる、嬉しそうな顔を思い出す。腕の中の花束がまた、ずんと重くなった。

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