ガラスの瓶につぶされて

快晴のヒマワリ・2 ページ23

「渉、今日も少し時間あるかな？生徒さんに教えてもらった老舗の和菓子屋さんがあってね。今日買ってきてもらったから、一緒にお茶しない？」


　オレの気持ちも知らずニコニコと優しい声で話しかけてくるものだから、胸がちくりと痛んだ。

　太輔は、オレがどんな心で午前中を過ごしてたか知らないから。
　だから、こんな優しい顔ができるんだろう。知ったらきっと、呆れるか引くかのどっちかだ。


「…うん。…食べる」

　いつもの返事を、いつもより少し小さな声で口にする。
　思ったより低い声が出てびっくりしたのに、太輔は気にした風もなく眩しい笑顔を浮かべてきた。やっぱり、嬉しそうにオレの顔を見つめてくる。


「よかった！実はね、渉に話したいこともあるんだ」

「えっ」

「本当はずっと前から決まってた事なんだけど、誰にも話しちゃいけない内容だったから今日まで言えなくてさ。午後からやっと話せるようになったみたいだから、自分の口からは一番に渉に伝えたくて」

「っ。それって…まさか、ドラマの…？」

　思い当たる可能性を呟けば、太輔の両目が驚いたように丸くなった。

「あれっ。渉、もう知ってた？」

「…店に行ったら、テレビでやってたから。…その。花屋役だって。何も知らなかったから…びっくりした」

「そっか。知っててくれてたんだ」

　太輔がまた、眩しい笑みを浮かべる。


「一目惚れした家元のお嬢さんに、毎日自分の店の薔薇の花束を贈る青年の役なんだ。話をもらったときは俺と渉に似すぎててびっくりして、渉のお仕事を擬似体験できるのが嬉しすぎて、ぜひやらせてくださいって言ったんだよ」

「オレ達に、似てた…？」


　オレ達『が』似てた、わけじゃなくて？


　…じゃあ、ドラマの話が来たのは、オレと出会った後って事か？

　…じゃあやっぱりオレは、太輔にちゃんと好かれてた、わけか…？


　オレの心の疑問を肯定するかのように、太輔の目尻がふわりとほころぶ。


「ドラマのラストはね、俺もまだ知らないんだ。シナリオの決まってないふたつのドラマがどんなふうに動くのか、ワクワクして仕方がない。両方ハッピーエンドになるように頑張らなきゃね」

　ふふっ。と肩を揺らした太輔のまなざしが、じめじめするオレの心臓をじゅわっと焼いた。

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