Last_Lover

Last_Lover（f視点） ページ45

side(f)


　渉の声を無視して、夜の街をただひたすら走った。

　走って、走って、喉がからからに渇いて、喉がふさがりそうになる。息をしようとしてせき込んでも、走るのをやめたくなかった。


　このまま走り続けて、ぜんぶ記憶をとばせたらいい。

　渉への気持ちを、ぜんぶ。


　そうできたら、いますぐ楽になれる。
　なのに、なんでできないんだろう。


　いつか、渉にキスを拒まれる日がくるって知ってた。

　成人した男がいつまでも寂しい寂しいって同性にキスを迫るなんて、どう考えたっておかしい。いくら仲がよくたって、普通はそんなことしないし、受け入れたりもしない。


　でも、渉は受け入れてくれる。

　俺が言えば、渉は拒まない。


　それを半分…いや、ほぼ確信してたから、だから強引にでも触れることができた。

　卑怯なまねをして、うそをついて、何回も渉の唇に触れた。

　その結果、いつかしっぺ返しがきて渉が俺を嫌う日がきても、それは受け入れなきゃいけないんだってずっと考えてた。


　でも待ってたのは、しっぺ返しよりも残酷な現実だった。


　北山より気になる人ができたって、渉が言った。

　なんで？


　他の人を好きになるなら、なんで俺を好きになってくれなかったの。


　キスしたくらいじゃ、渉には意識してもらえないの？

　そばにいてもダメ、キスしてもダメ。


　じゃあ、どうすればよかったの。


　それとも俺は、もう、ぜったいに渉には好きになってもらえないの？


　熱い感情がこみあげて、目の前の景色がぼやけてくる。

　ばかみたいだ。

　好きな人に嘘をついて、好きな人からキスを盗んで、好きな人に触れて、最後に残ったものは、なにもなかった。

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