鞠むっつ。 ページ6
「ポートマフィアはもう抜けたのだよ。今はしがない一探偵社員さ」
太宰は取り敢えず体を起こすと、冷たい石の壁に寄りかかった。やはり頭が少し痛む。
「外にいた人も仕事仲間ですか?」
「そうだよ。彼もそろそろ心配してるだろうし、解放してくれると嬉しいのだけれど」
少女は、なんとなく考え込むような素振りを見せた。
(…………いや、なんで考え込むのか)
太宰は思わず苦笑する。
そもそも敵なのだから解放するという選択肢はありえないだろう。
組織慣れしていないのか、ただの優しい子なのか。
がたん。
「!」
「よう、初めまして。あんたが太宰か?」
石造りの扉をくぐって入ってきたのは、一人の男だった。
年は30前後で整った顔立ちをしているが、右眼を縦に跨ぐようにして走った傷跡が痛々しい。
腰に見せつけるように何丁もの銃がぶら下がり、がちゃがちゃと音を立てた。
「ボス」
「《双黒》と名高かった男も、所詮この程度か。まさかこいつ一人で捕えられるなんてなぁ」
ボス、と呼ばれた男は太宰を嘲るように言葉を発した。
「………私、どこかで貴方とお会いしましたっけ」
「黒社会最悪のコンビさ。当時の裏側の人間でなくとも一度は名前を聞くだろう。何年も前に片割れが姿を消したと聞いたが………こりゃ何の冗談だ? 元マフィアが、かの有名な武装探偵社で働いているだと? 何故? 更生でもしたか?スカウトでもされたのかぁ?」
『ボス』は矢継ぎ早に質問を繰り返す。
「色々あるってものでしょう。人間なら、誰でも」
微笑みを作った太宰に向かって、『ボス』もにやっと笑った。
気障な言葉を吐いた時点でふざけるなと一喝されてもおかしくないのだが、相手もそこまで真剣に尋問をしているつもりはないようだ。
久々に思い出したポートマフィアでの日々に伴って、ポンコツ能力だの不出来な部下だのと罵った部下の顔が浮かんできた。
そういえばあのときは殴られたなぁ、なんでだろうと明後日の方向に思考がシフトしかけた太宰は、まだかなり余裕なのかもしれなかった。
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藤見日和(プロフ) - 竜泉さん» わぁ〜ありがとうございます! 頑張ります♪♪♪♪♪ (2017年2月4日 0時) (レス) id: 3600278a3d (このIDを非表示/違反報告)
竜泉(プロフ) - 描写表現が豊かで世界観がよく分かります。 とても面白いと思います、更新頑張ってください! (2017年2月3日 23時) (レス) id: 388cb5bae8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤見日和 | 作成日時:2017年1月14日 21時