◆16 ページ16
「…なあシャオロン」
「ん？」
「寒いんやけど」
「そりゃ北海道やからな」
「…なんで？」
白い息を吐きながら問いかけた。
今俺がいるのは、空港の前。隣に立っているこの男、シャオロンに着いてこいと言われ、気付いた時にはもうここに立っていた。
寒い。
「なんでって…んー、気晴らし？っていうか、そういう感じ」
「なんのやねん、別に追い詰められてへんけど」
軽く笑いながらシャオロンを見ると、急に鋭い視線がこちらを向いた。
「わかってんねんぞ、Aちゃんのこと忘れられてへんって」
「……は、何言うてんねん。そりゃ、自分の彼女のこと忘れる訳…」
「ちゃう、そういうことやなくて。…Aちゃんがおらんくなってから本気で笑ったことあるか？」
何も言えなくなる。
図星だ。
「もちろんさぁ、気持ちはわかるで。もう思い出すなとも言わへんし、そもそも言える立場でもない。やけどそんなに楽しくなさそうな笑い方されると、さすがに心配ぐらいするわ」
ほらこれ、と上着を渡された。
正直、かなり驚いた。Aちゃんがいなくなったことを知っているとは言っても、シャオロンにAちゃんの話はほとんどしていなかったし、できるだけ明るく振る舞うように務めてきた。
自分なりに楽しそうに笑うことかできていたはずなのに。
「こうでもせんかったら、ずっと何も言わんと抱えっぱなしやろ。もっと楽に生きた方がええんちゃう？Aちゃん、どう思うんやろうな」
そう言うとシャオロンは、少し先のバス停に向かって歩き始めた。
さすが、何年も一緒にいるだけのことはある。
確かに今まで俺が考えていたのはAちゃんと再会する事ばかりだ。Aちゃんが今の俺を見たら、どう思うのだろうか。
何かあってそばにいられなくなって、離れなければいけなくなった時。
Aちゃんは俺が自分を探して苦しみ続けることを、望むのか？
Aちゃんは人が苦しむ姿を見て、喜ぶのか？
「…今日だけは、楽しむか」
相変わらずポケットに入っている小さな袋を鞄の奥にしまい、シャオロンを追いかけた。
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