箸が転べば僕らは笑った -5-【魔d!】 (ページ30)

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Aは優しい
でも、それは歪んだ優しさだ

行き過ぎた許容、親からも貰えないような温かい視線
顔を見ただけで話すだけで幸せそうな表情を綻ばせ
彼はその気持ちを素直に「好き」と溢してくる

ut「…そ、っか、やっぱ、許してくれるんや」

Aの言う通りそれを【愛】と呼ぶのなら、手を伸ばしたくなるのは必然だ

例え抜け出せない沼に手を取り合ってダイビングするようなものであっても、僕にとっては喉から手が出るほど欲しかったものだったから

ut「確かに…僕はAが好き、誰よりも好きやし、僕の手で幸せにしたいってほんまに思っとる」

ut「でも、この感情はそれ以上に複雑で、好き以上のドス黒い何かが腹の中から顔を出すこともあるんよ」

ut「だから多分、Aに向けてのこの気持ちは…色々引っくるめて【依存】なんやと思う」

僕の気持ちはきっと、Aと同じものじゃない
僕の心を芯まで溶かすような優しいものじゃない

時には相手を追い込むような…醜いナニカなのだと思う

tn「…そういう風に思っとったんや」

ut「嫌やなトンち、僕はあの中で一番"マシ"やわ」

この気持ちがはっきりくっきり原因が分っとる上で悪魔らしい反応ができている
そういう意味においては、きっと僕がマシなのだ

ut「僕ら2人を全部纏めてどんなことしても受け入れるAも、私怨の感情で動くシャオロンも、どう考えても【普通】やないやろ？」

tn「…は？シャオロンはド普通…やん、か」

ut「そりゃあまだまだ悪魔を見る目がないってことやわ」

「今の顔、実は心当たりあったんちゃうの？」と続ければ、トントンはことばに詰まったかのようで口を閉ざした

ut「僕はAに拒否される事がこの世で一番怖い
拒絶されるくらいなら、その言葉を聞く前に…自害すると思う」

ut「でも、Aは絶対、僕にそんなこと言わんねん」

言ってはくれん、突き離さん、だからずるずる甘えてまう

ぬるま湯に浸かる時間は心地がいい
けれどきっと環境に晒されて少なからず僕らの関係は変わりつつある

トントンをはじめとした新しい仲間ができた

彼は好意的に彼らを受け入れている
僕も確かに悪くはないし楽しい時間だと思っている

でも、仲間が増えると必然的にぬるま湯に浸かる人数も増えるわけで
…密着率もその温度も下がっていくのだ

1番ぴったりな僕だけに都合の良い居場所ではなくなっていく