Hostage 32 ページ32
＊
地理的に、もうすぐ総統閣下の部屋につくだろう。
そうなったら、もう、覚悟を決めければいけない。...まだ、俺は人っ子一人も殺したことがないのだから。
心臓をぶっ刺して、人を殺さないといけない。
一体どんな感触なんだろう？きっと、気持ち悪い感触なんだろうな。
それに、王家の人間が人を殺したならば、俺は最悪、もう王家を追放されるんだろう。
...きっと、王もそれをわかっていて、俺にこんなことをさせるんだ。
『...あーあ』
ポツリ、そう呟いて、ダクトの凹んだ入り口を軽く押す。少し軋みながら開いたダクトの入り口から、物音一つ立てずに着地した。
上手く気配は消せているだろうか。
慎重に辺りを見渡し、場所を確認。...間違いない。ここは総統の部屋だ。
相変わらず、随分と位の高い部屋だ。
初めてここにきた時、確かいろんな決まりを言われたんだっけ。早速破ってしまっていたけど。
なんだか、たったひと月前だと言うのに、こんなにも懐かしいと感じるとは思いもよらなかった。
書斎の隣にひっつくようにして完備された寝室。耳を澄ますと、僅かだが呼吸音が聞こえた。
...寝ているようだ。
しかし、寝ているからといって油断は禁物。
そろりとドアを開け、できる限り気配を消して進む。
『...』
心を落ち着かせて、目の前の状況を把握する。
オッケー、目の前には何も知らずに眠る総統。周りに監視カメラはあるものの、完全に別のモードに切り替わっているようで、あまり機能していない。
はーっはーっと緊張で荒くなる呼吸を押しとどめ、震える手で長ドスを取り出した。
怖い。
いやだ。
殺したくない＿＿＿＿＿＿
でも、死にたくない。
様々な想いが交差して、渋滞を起こす。
今から、この上等そうなシーツは赤く染まるのだろう。
そして、様々なものが無造作に投げ出されて、一気に酷いものになるのだろう。
ああ、いやだ。
俺はまだ、覚悟ができていない。こんな調子じゃ、絶対にダメなのに。
俺の意思に反するように、長ドスを持った手は上へ上へと登って行く。
『＿＿＿＿っ！』
長ドスが勢いよく刺さってシーツから羽毛が勢いよく飛び出す。
目の前で、今、総統が俺の手によって殺された。
＊
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作者名：たこやき。 | 作成日時：2018年7月31日 22時
