テリトリー

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「お腹空いた〜」


そう言って、私の横に並んだ宏紀は
人懐っこい笑顔を見せた。

釣られて私も笑う。




『マ・メゾン寄らないの？』

「うん。今日はお母さんが作ってくれてるから帰ろうかな」

『そっか。』

「ご飯なにかなー」

『生姜焼きじゃない？』

「いや。一昨日それだったからなぁ。」

『宏紀は何食べたいの？』

「うーん。今日はチキン南蛮の気持ち。」

『私それさっき、食べた。』

「えー！いいなぁ！」


やばい、もうチキン南蛮の口になってきた。

なんて言って笑う宏紀と

食べたい食べ物が同じだった事に
嬉しくなる私。



「今日、何かいい事あった？いつもよりニコニコだね。」



それは、今話せてるからだよ。

宏紀と。



『あのね、今日。。。。』



私の言葉は
エレベーターから降りてきた瑛茉ちゃんを見た途端に消えた。



違う。



「瑛茉！」



と嬉しそうに呼ぶ
宏紀の声に消されたんだ。




「どこか行くの？」

「マ・メゾンに行く」

「え？じゃぁ、俺も一緒に行こうかな」




嬉しそう。



『行ってらっしゃい』

「うん。じゃぁね」




私に手を振ると
瑛茉ちゃんと並んで歩いていく宏紀。

楽しそうな宏紀の声。




良かったね。





「良かったのかよ」



エントランスにいたのは穂積。



『何してるの？』

「コンビニ行きたくなって戻ってきたら、話してるの聞こえた。」

『あ、そう。』



エレベーターのボタンを押すとドアが開く。



「で、良かったのかよ」

『何が？』

「良かったって顔してるけど」




なにそれ。




『宏紀の恋を応援することの何が悪いの？』

「バカなの？お前の気持ちはどうなるんだよ」




私は穂積の胸もとのシャツを掴んだ。




『私は、自分が惨めになるようなことは絶対したくないの！』




宏紀が瑛茉ちゃんを好きなのは決定で、
それを私の方に向かせることなんて出来ないんだから。


仮に、瑛茉ちゃんとの仲を割くようなことしたら

軽蔑されるに決まってる。

そんなの、惨めすぎる。




私は穂積のシャツから手を離した。




『宏紀のこと、みんなにバラしたら許さないから』




既に閉まっていたエレベーターを無視して、
階段を駆け上がった。




穂積なんて、大嫌い。





4階まで上がったところで
私は自分が泣いていることに気づいた。

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