テリトリー

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トイレ遠い。

歩いてもたどり着かないんだけど、

そもそもこっちの方向で合ってるのか？

と、トイレの場所を示す張り紙の矢印も疑わしく感じる。



そして、
初めて履く下駄の歩きにくさと、
鼻緒の部分が指の股に擦れて、痛みを感じた。


私の横を通り過ぎる浴衣を着た子達はみんな笑顔で、
女子ってすごいなぁ。なんて。



あー。
どうしよう。

早く帰りたい。


足が痛い。

もう歩きたくない。

指についたチョコレートが不快。

楽しそうにしている人達が不快。



今の状況が全部ぜんぶ、


さいあく。





そんなこと考えても何も解決しない。

とりあえず、
チョコレートの不快さと、足の痛さを天秤にかけると
足の痛さの方が深刻なわけで


指はティッシュで拭いて、(ベタベタはまだ残っている)
通路の端に寄り、下駄を脱いだ。




「あれ？Aさん？」



最近よく聞く声。



『あ。田中。』



バスケ部の友達なのか、
この前マ・メゾンに一緒に来ていた人たちと一緒にいた。



「田中ってAさんと仲良いのな」

「意外ー」



そう言って笑う人たち。

小学校の時の記憶が過ぎる。


無口、無愛想な私には友達がいなかった。

友達になろうとしてくれた人達は、ハブられるようになって
私とは友達にならない道を選んだ。



「え？仲良いでいいの？」



田中が私の顔を覗き込んだ。



『え？』

「いや、俺なんかがAさんと仲良くしてていいのかな？って。」



そう言ってやっぱり笑顔をこちらに向けている。この人はいつも笑ってる。



『仲良くしたい』


笑顔に釣られるように、
本音が零れた。



今までずっと誰かに言いたかった言葉。



「じゃぁ、俺とも仲良くしてね！」

「俺たち、田中とセットだから」



そう言って、名前も知らないその人たちは私に笑顔を向けてくれた。




『よろしく』



上手く笑えたか分からないけど、
私史上最高の笑顔を作ってみた。



「Aさんって、笑顔ヘタクソだね」



田中くんには、笑顔が通じたみたい。



「え？これ笑ってんの？」

『はい。』

「なにそれwww」

「Aさんって、無愛想って思ってたけど、表情読みづらいだけだったのかwww」




解けていく。


こうやって、誤解は解けていくんだ。



どうでもいいって思ってたけど。



ミルフィーユの住民メンバーだけの世界では解けなかったものも、こうやって。

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