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俺があの喫茶店に足を運んでいたのは、ただ、取り巻く環境から逃れたかったからだ。目立たない場所にある落ち着いた場所は、俺が入っても誰も触れやしない。薄暗い店内で、もし気付かれたとしても、見て見ぬふりをしてくれる。
ここのマスターはお淑やかなひとだった。野球選手と分かっても、サインや写真も頼まず、ただ砂糖が少し多めのカフェオレを提供してくれる。ぽつりぽつり零す俺の言葉を、微笑みながら聞いてくれる。

そんな場所に通い始めたある日、小さい額に入れられた絵が飾られた。絵に疎い俺も、つい目を止めてしまうような、魅力のあるものだった。



「…気に入った?」

「いや、」



エプロンを結び直しながら、マスターが優しく問う。気に入った、のかは分からない。ただ、気になった。この絵をどんなひとが描いているのだろうって。優しく、暖かい、心をほっと落ち着かせてくれる、そんな雰囲気を持つ絵。



「…絵とか分かんないけど、素敵だと思います」

「ふふ、そうでしょ?描くひとも、とってもかわいいのよ。上林くんより三つくらい上だったかな、すごく柔らかい子」



彼女と、彼女の作品に惚れちゃってね。

そう、マスターは優しく笑う。よほど、そのひとに魅了されているんだろう。表情から伝わる。そのひととの出会いを話し始めた彼女は、とても楽しそうにしていた。個展で出会い口説き落としたらしい。



「よくここにも来てくれるのよ。…上林くんとは行き合ったことなかったかしら」

「いや、俺は分かんないすけど」

「お洒落でかわいくて、雰囲気がある子だから、きっとすぐ分かるわよ」

「べた惚れっすね」

「ええ、もちろん。上林くんと同じくらいね」



上林くんのこともすごく尊敬してるわ、と彼女は笑った。ホークスファンらしいマスターは、そんな雰囲気を微塵も出さない。本人曰く、俺に警戒されたくないらしいが、そこまで分かりづらいと嘘なんじゃないかと思ってしまう。ただ、オープン戦のチケットがほしいと言っていたから、応援はしてくれているんだと思う。



「上林くんと葵ちゃんが、出会う日が来るといいのに」

「…楽しそうすね」

「そんなことないわ。ただ、私も歳をとったってこと。若い子を応援したくなるくらいにはね」



そう微笑む彼女は、まだまだ老け込む歳でもないのに、美しい瞳を細めていた。葵ちゃん、と呼ばれたひとに、あんなに魅了されるなんて、この時の俺はまだ知らない。

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aoi(プロフ) - みゆうさん» こちらこそです*楽しみにしています。 (2019年3月5日 1時) (レス) id: 1e8b3648c1 (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさん» 見てきただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2019年3月4日 22時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みゆうさん» とてもありがたいお言葉ありがとうございます…!意識している部分でもあったので、嬉しいです*そして実は私、みゆうさんのおはなし拝見させてもらってます。私こそ更新楽しみにしています* (2019年3月1日 0時) (レス) id: ddb827d49e (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさんの書く小説、主人公の見ている景色や生活の雰囲気だったり、想像力が膨らんで、心がほっこりする言葉の使い方が凄く好きです。更新楽しみにしています! (2019年3月1日 0時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月28日 23時

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