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近付いてきた長い睫毛が、優しく揺れた。キスされる、と思った。思わず強く瞳を閉じると、彼は優しく笑ったような気がした。
そのまま、指を絡めるように繋がれ、私の手はゆっくり彼に引き寄せられる。そのまま、手の甲に暖かい唇が落ちた。

顔が熱い。きっと耳まで赤くて、かすみ草のピアスは揺れている。ただ、誠知くんの動きが綺麗で、目を逸らせない。逸らしたらきっと、後悔する。



「初対面のひと、」

「え?」

「初対面のひとにキスなんて、初めてされました」

「…俺も初めてしました」

「誠知くん?」


「俺、葵さんのこと、もっと知りたいです」



また俺と会ってもらえますか?、そう見詰められた視線は、懇願だった。少し後悔しているように見えた。私、嫌がったりしていないよ、大丈夫。そう伝えたかったのに、言葉は何ひとつ出てこない。

こんなすごいひとが、私を知りたいと言う。私はこれ以上何もでないし、きっと誠知くんが期待したようなひとにはなれない。そう思いながらも、彼の瞳から逃れられなくて。



「私も、知りたい…誠知くんのこと」



本心だった。誠知くんの表情や仕草を見ると、胸の奥がしくしくと濡れる。これはきっと、なんなのか。分かっているけれど、認めたくなくて。

彼を知れば、答えは導かれるのかな。

そんな思いで、真っ直ぐ誠知くんを見た。見つめ返す切れ長の瞳が、少し揺らいだ。



「やばい、俺…」

「え?」

「…いや、なんでも」

「誠知くん?」

「…こんなの、俺知らないっす」

「え…?」



一目惚れ、みたいな。

そう小さな声で囁く誠知くんは、耳まで赤くなっていた。その言葉に揺らいだのは、私も同じで。低い声が呟いた、一目惚れ、というワードが、頭の中をループしていた。

そんな言葉にしたらだめだよ。恋愛が始まってるって、教えているようなものじゃない。恋愛対象として見てるって、言っているようなものじゃない。

言えなかった気持ちに、目を閉じた。彼も何も言わなかった。私も彼も、まだまだ初めまして。これから、あなたのことを知っていけば良い。

私はあなたのことが、誠知くんのことが知りたい。ふさふさな頭とか、高い鼻筋とか、柔らかい唇とか、広い肩とか、大きな掌とか、ぜんぶぜんぶ。それでいつか、笑い合えたらしあわせだと思う。


そう伝わってほしくて見上げた彼は、優しく微笑んで、大きな手で私の頭を撫でた。




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手の甲へのキスは、敬愛と愛しさだそうです。すてき。

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aoi(プロフ) - みゆうさん» こちらこそです*楽しみにしています。 (2019年3月5日 1時) (レス) id: 1e8b3648c1 (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさん» 見てきただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2019年3月4日 22時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みゆうさん» とてもありがたいお言葉ありがとうございます…!意識している部分でもあったので、嬉しいです*そして実は私、みゆうさんのおはなし拝見させてもらってます。私こそ更新楽しみにしています* (2019年3月1日 0時) (レス) id: ddb827d49e (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさんの書く小説、主人公の見ている景色や生活の雰囲気だったり、想像力が膨らんで、心がほっこりする言葉の使い方が凄く好きです。更新楽しみにしています! (2019年3月1日 0時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月28日 23時

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