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「誠知くん」
太陽が沈んで、しばらく経った頃。音を立てたアトリエの扉に目を向けると、大きな彼が立っていた。オープン戦が始まって、忙しい日々を送り始めた誠知くんに、少しだけで良いので会えますか、と連絡を入れたのは昨日だ。
少し、疲れているのだろうか。今日も試合があったはず。心配になって、戸惑いながら誠知くんに近付くと、無理して口角を上げたように見えた。
「…誠知くん」
「葵さんだ…」
「疲れてるのに、わがまま、言っちゃったね」
「ううん、全然。大丈夫す」
「そんな風には見えないよ」
「本当に大丈夫なんすけど、ただ…葵さんに会えて、ほっとしただけ」
大きな彼の顔が、私の肩に落ちた。胸がきゅっと苦しくなって、緊張する手で頭を撫でる。しばらく黒髪を撫でていると、誠知くんの腕が背中に回って、そのままぎゅっと抱きしめられた。
「せ、いじくん?」
「…葵さんが連絡くれて嬉しかった」
「え…」
「すげえ会いたかった、俺も」
「誠知くん、」
「オープン戦始まって、気張ってたから…今すごい癒されてます」
力強く抱きしめられて、何もできなくなってしまう。オープン戦が始まって、野球を知るようになった。半信半疑だった上林誠知くんという選手は、テレビ画面にしっかり映っていて、本当に野球選手なんだと実感した。
プロの世界は厳しい、言葉にするのは簡単だ。成績を残さないといけない世界で、一生懸命な誠知くん。そんなひとが縋るように、私を頼ってくれている。なんだかすごく甘やかしたくなって、震える手を広い背中に回した。
「お疲れさま、誠知くん」
「ん」
「よしよし」
「まだ本番始まってないのに、こんな甘えていいんかな…」
「いーの。誠知くん、中々甘えなさそうだから」
静か、だった。お互い話さず、ただ鼓動を聞いていた。誠知くんの少し早い鼓動。私がそうさせていると思うと、ちょっとだけ嬉しくなった。
「今度、マスターとオープン戦行くね。チケット、用意してくれてありがとう」
「ん。打てるように頑張ります」
「…あとね、誠知くん。これ、」
誠知くんの肩を少し押すと、名残惜しそうに離してくれた。
「これ、…もらってくれないかな」
少し驚いた顔をした彼に、あの絵を見せた。
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オープン戦始まりましたね!わくわくです!
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aoi(プロフ) - みゆうさん» こちらこそです*楽しみにしています。 (2019年3月5日 1時) (レス) id: 1e8b3648c1 (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさん» 見てきただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2019年3月4日 22時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みゆうさん» とてもありがたいお言葉ありがとうございます…!意識している部分でもあったので、嬉しいです*そして実は私、みゆうさんのおはなし拝見させてもらってます。私こそ更新楽しみにしています* (2019年3月1日 0時) (レス) id: ddb827d49e (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさんの書く小説、主人公の見ている景色や生活の雰囲気だったり、想像力が膨らんで、心がほっこりする言葉の使い方が凄く好きです。更新楽しみにしています! (2019年3月1日 0時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月28日 23時