06 夢落ちじゃ終わらない ページ8
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もつれる足で日が傾いた街を駆け抜け、息を切らしながら自分の家に転がり込む。
手早く玄関の内鍵を閉め、ダブルロックも忘れない。
慌ただしい物音にリビングから母の怒声が飛んできたけど、そんなの知ったこっちゃない。
乱れた呼吸を整えて、私はゆっくり溜め息を吐いた。
(サイアクだ……!)
頭がおかしいと煙たがられる方がまだ良かった。
まさか本物のそっち系が二人も出てくるなんて、いったい誰が予想出来ただろう。
パチンコなんか打ちに行くんじゃなかった、と今さら後悔の念に押し潰される私。
本日何度目かも分からない溜息を吐き、顔を上げる。
「……真面目に生きよ…」
乾き切った喉でそう呟いて、私は重たい体をひきずり二階へ上った。
◯
次の日目覚めると、とても清々しい朝だった。
外では無邪気な子供の笑い声なんかが聞こえてきて、昨日の出来事が夢だったのでは無いかと錯覚させるほどである。
__いや、むしろ夢だったんじゃない?そうなんじゃない?
考えてみると、パチンコで大負けしたのも、一人でクッキー縛って遊んだのも、ぜんぶ悪い夢だったのだと納得がいく。
「……なるほどね〜!はいはい、夢落ちのパターンね!!」
だっはっはと女子らしからぬ笑い声を出して、着替えようとタンスを開け寝間着に手を掛ける。
今日は久しぶりに求人でも探してみようか。
ぼんやりとパジャマのボタンを外しながら考えていた、その時。
(__け、退けよクソ松)
(___んなこと言ったって、狭いんだから仕方ないだろ!)
かた、と小さくクローゼットの戸が揺れて、ぼそぼそと低い声が聞こえた気がした。
不審に思い、中途半端に脱いだ寝間着のまま扉を一気に開けてみる。
「……ア?……ああ、おはよ……」
「お、おはようカラ松ガール!…良い朝だな」
紫色のスマホを構え、眠たげな目を血走らせながら鼻息を荒くする一松さん。
隣にはサングラスを頭に掛けて真っ赤に頬を染める、少し前屈みになったカラ松さんを従えて、二人は狭いクローゼットの中でぴったりと身を寄せ合っていた。
ぴろりん。
スマホから撮影を止めるような音が鳴って、マスクを顎まで下げた一松さんがにたりと私に笑い掛ける。
「大丈夫だよ。これ、夢だから」
「もう勘弁してください!!」
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スカイ(プロフ) - 本当に好き....!!!めちゃめちゃ面白いです!作者様がまた書きたいと思いましたら、更新して頂けるととても嬉しいです!待っています! (2020年6月2日 18時) (レス) id: a0f03080e5 (このIDを非表示/違反報告)
おもちもちもちもんだみん(プロフ) - おもしろい〜! (2019年2月14日 14時) (レス) id: bcc917b3e1 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモ(プロフ) - ナバポさん» コメント有難うございます!こじらせクズがとても好きなんです〜!楽しんでもらえてとても嬉しいです! (2017年12月23日 12時) (レス) id: 63c1855969 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモ(プロフ) - 俺の嫁は二次元(キリッさん» コメント有難う御座います^^年に二度ほどしかない更新ですが楽しんでもらえたら嬉しいです! (2017年12月23日 12時) (レス) id: 63c1855969 (このIDを非表示/違反報告)
ナバポ(プロフ) - 二人がクズをこじらせている笑面白かったです! (2017年6月14日 20時) (レス) id: 03f7a55e36 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヨモ | 作成日時:2015年12月15日 21時