八重島さんの夏休み【白鳥沢】 (ページ4)

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四十四重島さんページ4

白布side

倉庫でテーピングをしてると、
入り口の方で誰かが叫んだような気がした。

もしかして、太一が戻ってきた？

「先食べていいって言ったろ………って、Aさん」

「ごめん、忙しかった？」

「全然大丈夫です。
　あ、こっちの方が涼しいですよ」

ほんとだ～と、笑うAさんの隣に座る。

「体調は大丈夫なんですか？」

「たぶんね」

「たぶんって…」

どこか他人事のように話すAさんに少しイラッとしてしまう。

………もう少し自分を大切にしてほしいんだけど。

というかこの人は無茶をしすぎだ。

食堂のバイトもおばちゃんたちと代わって、

ない日は合宿所のを引き受けて。

俺は知っている。

この人がどれだけの人に愛されているのか。

・

扇風機が静寂をかき回す。

「Aさんが倒れたときびっくりしました」

「そう！助けてくれてありがとう！！
　白布くんと牛島くんは命の恩人です」

「ちょ、やめてくださいよ」

目の前で手を合わせて拝んできたので、慌てて手を下げる。

「でも本当に焦りました」

「えー、そんなに？」

「こんな簡単に倒れちゃうんだなって」

目の下がじんわりと温かくなる。

瞬きしたら、涙がこぼれそうだ。

たのむ、涙腺もってくれ。

・

残念なことに俺の祈りは届かなくて、パタパタと涙が落ちた。

「ちょ、どしたの？！」

「汗が目に入っただけです」

「え、だって涙が」

「泣いてなんかないです」

最悪だ。

このまま夏の暑さに熔けてしまいたい。

涙はとまらず、むしろ加速を続ける。

「白布くん」

名前を呼ばれ顔を上げると、ふわっと優しい匂いに包まれた。

「なんで、すか」

「泣いてる子は放っておけないから。
　あ、こうしたら顔見えないでしょ？」

抱きしめられてるせいか、いつもより声が近い気がする。

耳に髪が触れてちょっとくすぐったい。

「A、さん」

「んー？」

間のびした声が返ってくる。

背中に腕をまわすと、Aさんは思っていた以上に細かった。

「もう、無茶しないでください」

「うん。約束する」

俺が思っていたより、Aさんは何倍も小さくて、何倍も頼もしかった。