30話 ページ31
無駄だと知りながらぼくは走った。人間共の言うとおりならばきっとそこにはいない。だが走る以外に何をすればいいのか分からなかった。火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか、あんなにも登るのに苦労した山道が嘘のように登って行ける。己の身など考える暇はなかった、そんなものいらなかった。
荒い呼吸の中、あの地へと足を運ぶ。この先だ、そう思い震える足を前に踏み出した。
しかしそこには灰しか残っていなかった。人間共の話は本当だったらしい。今となっては死骸となったものに問いただせず、完全に手掛かりを失ってしまった。1人くらい生かしておけばよかったのか。そう言ってもあの時のぼくにそんな余裕はなかったはずだ。
あの時よりなんだか心は穏やかだ。本当に好きだったのに何故だろう。ぼくはそんなにも冷たいやつだったのか。人間と同じなのか。あぁ嫌だ。
震える足を休ませようと近くの木にもたれ掛かる。松ではなかった。息を整えようとして空気を吸う。ひどく死にたいのに生きようとするぼくの身体は最高に皮肉がきいていて、ただぼくは灰を眺めるしかなかった。
ごめんな。ぼくが松陽といたからお前まで巻き込んでしまった。楽しかったんだ、お前と過ごす全ての時間が。幸せだったんだ、お前の笑顔を見ると。嬉しかったんだ、ぼくに話しかけてくれてこと、居場所をくれたこと、そして名をくれたこと。
もしお前が生きているのなら、本当に死ねないのなら、ぼくは永久にお前を待とう。だからお願いだ。ぼくをまた迎えに来てくれ。
雨が降っている。陽は出ているのに雨が降っていた。ちょうど掌の水晶のような雨粒で、側の勿忘草に降りかかる。
だが相変わらずツバメは高く飛んでいた。
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作者名:月光 | 作成日時:2018年6月2日 16時