16話 ページ17
目の前にはあの日焦がれた大きな夕陽があり、陽は紅と橙の色を放ちながら威厳のある風格でぼく達の前に存在していた。目の前と言っても手を伸ばせど届かぬ光だが格子越しではないあの光、浮世にこのような美しいものがあったのだろうか。
その姿に見惚れていたのか声も出さずにただ夕陽を見ていたぼくに、ぼくを連れ出した人間はくすくすと笑った。
「初めて見たのですか?」
「あぁ…こんなにも美しかったのか」
何故、ぼくがこの人間と普通に話しているかというと、ぼくは先程「ぼくといたら死ぬからやめろ」と言ったのだ。しかしこの人間は清々しいほどの笑みで「嫌です」と、簡潔に言うのだからぼくが根負けした。まぁぼくを殺すつもりならさっさと殺しているはずだし、悪いやつではないのだろう。不思議な人間だ。
そこでぼくは一つ思い出す。
「おい人間、お前の名は何だ?」
人間は固有の名を持っており、ぼくのような『鬼』などの通称は日常で使わないはずだ。
近くにあった松の木の根本に二人で座る。ぼくの問いに人間は苦笑いして言った。
「私、人じゃありませんよ」
「…は?」
何を言っているんだこの人間は。そんなことを言いたげなぼくの視線を察し取ったのか、人間はおもむろに懐に手を入れる。心臓でも抉り取ってくれるのか、そう考えたぼくの心臓は止まる。なんと人間は懐から小刀を取り出したのだ。ひゅっと喉が鳴り、ぼくが臨戦態勢をとろうとすると、人間は慌ててぼくから離れた。
「あぁごめんなさいごめんなさい!違うんです、証拠を見せようと思って。君を傷付ける気はないんです、だから怖がらないで」
一旦小刀を置いた人間は、何も持っていないと言う風に両掌をぼくに見せた。
「ね、ですから私を信じて、何もしませんから」
若干、人間の手が震えていたのは何故だろうか。
差し出された手をそっと取ると、人間は優しく笑った。心底安心したような顔して笑った。
人間の横に座って、人間の行動を見守る。人間は落とした小刀を拾いぼくを一瞥する。ぼくが心配なのかもしれない。平気だと言うように繋いでいた手を少し強く握った。繋がれた手を人間は離して小刀の刃先を自らの腕に突き立てた。ぼくと同じ真っ赤な血が出る。人間は顔を少し歪めた。
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作者名:月光 | 作成日時:2018年6月2日 16時