鬼の姫君が蝙蝠達を救済する話～序章参～ (ページ24)

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貴女side

先代の死､その話題に妖達は口を噤む｡

貴「あの時､父は黒蝶家の婿として暴走した妖の討伐を命じられていた｡

祖父は父の出自に配慮して､幽鬼一族の領地を荒らす妖を討たせようとした｡」

「それを知った叔母や義叔父を筆頭とする反対派は先回りしてその妖の暴走が酷くなるよう手を加えた｡

その上で､傍にいたにもかかわらず助けを求めた父を見捨てた｡」

巴の宿った方の拳を強く握る｡

「普段ならばその程度､負けはしなかっただろう｡

しかし父は､ほぼ人の身となる満月の日を選択した｡

そうすれば陰陽師としての才も測れる､祖父や母の顔が立つ…父はそう信じていた｡

結局それは反対派の進言だったがな｡」

不快感に顔を顰める｡

「…あの時､その仕事に着いていくように叔母夫婦に言い付けられ､そばに居た｡

父は凶暴化した妖から妾(わたし)を逃がした｡

そして､何も出来なかった妾は逃げる道すがら巴が手に刻まれたことで父の死を知った｡」

爪が掌の肉に食い込む｡

貴「だから､父の死は一概に反対派のせいとも言い難い｡

何せ妾がもう少し早く覚醒していたなら父が妾を庇う必要などなかったのだからな｡」

秀「姉さん､もう…」

とうとう血が出始めた拳を秀飛の手がそっと包む｡

はっ､と正気に戻った｡
冷や汗が頬を伝う｡
説明のつもりが随分入り込んでしまったようだ｡

貴「…妾は大丈夫だ秀飛｡

血が着いてしまうから離しなさい｡」

秀飛はふるふると首を横に振って､一層”私”の手を傷付けないよう強く握った｡

”私”は一瞬だけ弱々しく笑って､小声で秀飛にありがとう､と伝える｡

そして妾は表情を消して､ゆるりと秀飛の手を解く｡

貴「済まない､随分長くなってしまったな｡

他に聞きたいことは…」

声はあがらない｡

貴「…ない､か｡

では､少し休息を挟んで総会の進行に戻ろう｡」

くるり､と身を翻して賓客席の下の天幕へ向かう｡

その途中､先程から心配そうに見守っていた蛟の横を過ぎる｡

貴「次は､君と妾の番だぞ｡」

軽く肩を叩いて微笑んだ｡