狼と羊【中原中也】 (ページ11)

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羊ページ11

『おーい、大丈夫かい？少年』

「ゴホッ…大丈夫で、ゲホッゴホッ」

目の前で激しく咳き込む少年の背中を摩る
無理させてしまったか。
其れにしても芥川とは何処かで聞いた事がある
……太宰さん直属の部下だっけ？

『君幾つ？』

「…ゴホッ……成人しています」

『少年じゃないじゃんか』

思わず真顔で突っ込み手を止める
(私の中で)少年と呼べるのは二十歳未満だ

「…僕(やつがれ)が少年に見えると？」

口元を抑え不満気に此方みる芥川…クンの頭を撫でた。不意討ちだったのか彼の表情は阿呆面

『そんな不健康な体してたら見えちゃうよ』

ふっ、と微笑んでみた。
之は只の気分だ。あれ、あのー…そう、あれよ
初めて後輩出来た時に可愛がりたくなるのと同じ心理よこれ(意味不明)

「……そうか」

一方の彼は頬を赤く染め余所見した
……あっ、若しかして撫でられるのに慣れてない？

『……』

試しに頭を撫で回してあげると真っ赤な顔で此方を睨んできた。おやおや可愛い

「何時まで撫でているおつもりだ」

『御免よついつい可愛くて。』

芥川クンから手を離し辺りを見回した
取り敢えず海から上がり近くの倉庫に隠れたのだが此処が何処だか分からない。
いやあ困った。実に困った

さて、どうしたものか

「この辺りからだ！探せ！」

其の時、聞き覚えのある声が聞こえた
この声は国木田サンの声

…と、云う事は

「全く…いい入水場所があったのに」

彼の人も来ている。
図星だ。嫌だ帰りたい

「……太宰さん」

物陰から隠れ今にも飛び出しそうな芥川クンを抑えて本を具現化した。ある頁を開き私は唱える

『異能力──────エイプリル・フール』

何時だったか。
英国に行った時とある少女から盗んだ能力
……彼女はいい能力を手にしていたのに勿体無い

『芥川クン、君は海で溺れている所を私に助けられただけ。君と私は赤の他人だ

顔も名前も知らないただの街人』

目を合わせ嘘を吐くと忽ち彼の目が濁り其の瞳には殺気が含まれた。…成功

「おや…？そこにいるのはさっきのお嬢さん」

太宰さんと目が合う
セーフ。芥川クンと数歩離れた所で見付かった
因みにエイプリル・フールの効果範囲内は無限なので太宰さんにも異能が効く

だって之は触れる事で発動する異能ではないから

『…如何も』

軽く解釈をし彼の元へ歩み寄った瞬間

ｸﾞﾁｬｯ

『……は？』

私の腹に穴が空いた