今際の際 (ページ9)

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「ぅ……んぐっ…」

少女はもがき苦しむ。

ギリギリと絞められていく自身の喉。

目の前には、鬼の形相をした父親。

「お前なんか、死ねばいいんだ!!」

籠る耳の中で、響く声。

回らない頭の中で、その声かグルグルと渦巻くようだった。

生理的に流れていく涙が視界を歪ませた。

「ぁ……ぁぅ……」

苦しい、苦しい。

誰か助けて、と力の入らない手を伸ばす。

視界が暗くなっていくのに、声はハッキリと聞こえたまま。

ふと、少女の耳が父とは違う音を拾った。

『A……A！』

聞こえたのは、自分を呼ぶ安心する声。

そっと微熱にまで下がった彼女が魘されながら寝ていると気がついた俺は、慌てて彼女の身体を揺する。

目を覚ました彼女は苦しそうに呼吸をしながら、ボロボロと涙を流した。

「もう大丈夫だから…」

悪夢で魘される事は俺にもある。

それがどれだけ怖くて辛い事かもよく分かっているつもりだ。

言葉でなら幾らでも言える。

大丈夫だよと心から伝えるには、使い物にならない男には彼女を優しく抱きしめるしかなかった。

「っ………ごめん、なさい………ごめんなさいっ…」

何に謝ってるの。

胸が苦しくなる。

何だか、「生きていてごめんなさい」と言われているようで酷く切なくなった。

死ぬべきなのは自分の方だ。

嫌という程わかっている。

「……もう、いいから…」

聞いていられなくなって、俺は囁くように言う。

「Aは、何も悪くないんだから…」

こんな根っからの優しい人間が、悪い事なんてするはずがない。