今際の際 (ページ12)

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彼女は度々悪夢を見て目覚めた。

昔に両親から受けた虐待の記憶や、育った施設での疎外感、上司からのパワハラによって生まれたドロドロとした悪魔のような感情。

それらが、そのまま映像として流れることもあれば、何か別の形で彼女を襲う事もある。

夢の中での事は流石の俺でもどうにも出来ない。

だけどそれ等は、俺がたまに薬を売りに出掛けた夜は必ず見るようだった。

俺は薬を売らなくなった。

夜、彼女のそばにいれば彼女が苦しまないのなら、そばにいてやる他なかったし、俺自身もそれで心が満たされた。

ゾマからは散々連絡が来たが、薬を売るのはもうやめると俺は頑なに言って譲らなかった。

俺のそんな姿はあまり見たことがない、とゾマは言って、最終的には許してくれたようだ。

甘やかな幸せの中で、俺は今日もまた彼女を胸に抱いて眠りにつく。

恋人というにはまだ遠く、俺の想いも相変わらず一方通行だったが、胸に擦り寄ってくる彼女の温かさにもう少し甘えていたかった。