EP4 ページ21
彼女は病院の屋上で、車椅子に座り空を見ていた。
やがて、車椅子に体重を掛けて立ち上がると足を引きずりながらフェンスへと歩いていく。
フェンスを掴み、下を見下ろした。
8階建ての病院の外では、せかせかと人が歩いていく。
他人の事に興味なんてないのだろう。
誰も道を開けず、ぶつかっても謝りもしない。
そんな様子が遠目から見て何となく理解出来た。
「………」
彼女は大きく息を吸い込み、フェンスを掴む手に力を入れた。
そして、左足をフェンスにかける。
ガシャン、と大きな音がして彼女は少しだけ動きを止めた。
だが、構わずに登り始める。
頂上まで登りきり、フェンスに跨った時、屋上のドアが開いた。
彼女の姉だった。
店を営んでいる彼女の実家は、彼女が事故にあったその日こそ母も東京まで来ていたが、なかなか仕事を休む訳にもいかず、長野へと戻ってしまった。
「……翠?」
彼女は虚ろな目を姉に向ける。
「何してるの?」
彼女は何も言わず、静かに首を横に振った。
「……ねぇ、一緒に長野に帰ろう?
こんな息苦しい場所にずっといたら、酸素が無くて死んじゃうよ」
姉は優しく彼女に語りかける。
彼女はゆっくりと小さく頷いた。
「おいで」
姉は腕を広げる。
彼女はゆっくりとフェンスを降りて、姉の広げる腕の中に収まった。
「辛かったね、苦しかったね。
……今まで、よく頑張ったね」
姉は彼女の頭を撫でながら彼女を褒め続ける。
それは、姉の本心に他ならなかった。
彼女はポロポロと涙を零し、姉の服を掴んで泣いた。
静かに、ただ静かに泣き続けた。
「もう、帰ってゆっくりしようね」
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作者名:hoshina
作成日時:2019年10月7日 19時