文学少女の手記【3年A組】 (ページ8)

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彼は文学少女に聞かせるページ8

「武智先生って、凄いんですね」

少女の反対側で絵を描いていた彼は、少女の言葉を聞いてゆっくりと顔を上げた。

「テレビ、物凄く出るじゃないですか。
そんな人が身近にいるなんて、結構凄い事なんじゃ無いですか？」

彼は何も言わなかった。

何も言わず、少女をじっと見ていた。

少女はその視線が気になってしまい、顔を上げられなかった。

結局、視線に気付かないフリをして話を続ける。

「この前、武智先生に褒められたんです。
「君の文章は素晴らしい。この調子なら良い大学に推薦できるよ」って。
武智先生はよくスポーツの推薦を生徒にするそうですけど、文化系の推薦もするんですかね。聞いた事ないですよ」

彼は珍しく焦ったような顔をして勢いよく立ち上がった。

その勢いに負け、今まで彼が座っていた椅子が派手に倒れて大きな音が美術室に響いた。

少女は顔を上げる。

彼はツカツカとある種の恐怖すら抱くような足取りで少女との間合いを詰め、少女の目の前でしゃがんだ。

「ダメだ」

少女はその言葉の意図が掴めなかった。

持っていたシャーペンを置き、彼の目を見る。

「推薦、行くな」

「………一応聞きますけど、どうしてですか？」

彼は酷く迷っているようだった。

これも、彼が抱える何かなのだろうか。

「俺の知り合いが……同じような手口で大学に入学して……その、」

それが作り話である事は、何となく察した。

「迷うくらいなら言わなくていいですよ」

「……いや、聞いてくれ」

彼はとても真面目な顔をして、少女に語って聞かせた。

それは、武智大和が今まで行ってきた悪行だった。

今思えば、先生のそんな秘密を教えてくれるなんて、少女は入学してからかなり先生に信頼して貰えたようだ。