【リボーン】また還るまで、さようなら。【雲雀恭弥】 (ページ8)

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貸し借りと優しさページ8

もごもごと弱々しく抵抗する壱与に、雲雀は溜め息をついた。
こんなにふらふらしておいて、無事に行って帰って来れるとでも思っているのだろうか。

……そういえば、この家は風呂場が無いらしい。それは不便だろう。現にこの少女は病み上がりであろう身体で、銭湯に行く為に山を下りようとしている。途中から階段を転がり落ちて行きそうだ。
仮に無事に辿り着けたとして、浴場でぶっ倒れて介護されるのがオチだろう。

(今度この人に家屋の改装を申し出ようか。)

先程から静かにこちらを見詰める老人に一瞬だけ目を向け、壱与を抱え直した。

「そんな体調で銭湯に行こうとしてるの。……僕の家においで。風呂場位は貸してあげるよ」
「……おふろばぁ」

ぽえぽえと笑っている壱与は放っておいて、雅道の方を向く。

「良いのか？雲雀の坊」
「……貴方には長年の借りがあるからね。」
「そうか。なら遠慮なく預けるぞ。……くれぐれも怪我などさせるな。それは並盛神社の巫女だからな。」
「貴方もうちょっと素直になりなよ。巫女じゃなくて孫だろ。」
「……ふっ……笑えぬジョークを。」
「ジョークじゃない」

揶揄われたのにムッと顔を顰め、やけに微笑ましそうに見詰めてくる人を睨みつける。

「貴方はどうするの。」

――……先に行っておいておくれ。私はもう少し此処にいる。

「……そう。……じゃあ行くよ、ほら。」
「は～い」

ぐっと腕を引っ張られ、壱与はふらつきながら雲雀に連行されて行った。
雲雀はご丁寧にも彼女の落とした着替えを拾って。

「…………若造奴(め)が……」

生意気を言いおる。

静かになった神社の応接間。
雲雀に出していた神酒の残りを一息に飲み干し、老人はニヒルに笑う。

「……さてはお前の入れ知恵か？」

「真白(ましろ)」

開け放した襖に背を預けて、夜風に吹かれていた鳥の子色が緩く笑む。
細められた紅梅は、ゆっくりと山を下る子供達を静かに見詰めていた。