【完】One Knight / KnightA + Y (ページ23)

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　落ち着く。この人といると。

「んで、なんでまたこんなとこに？」
「え、……えっと。彼氏と友達がその。浮気してて、カッとなって出てきちゃったんです。……そしたらまひとくんが私をみつけてくれて……」
「ふーん……」

　聞いといてその返答なんだ。まあ、別に全然いいんだけど。

　今思い出しても悲しいを通り越して腹が立つ。でも、もういいやという思いも浮上してきた。酒のせいなのか、彼らのおかげなのかはわからない。想像以上に切り替えが早くなったのはきっと、色濃い時間をココで過ごしたからだろう。

　『One Knight』……か。
　一夜だけでこんなにも心が満ちたのはいったいいつぶりなのだろう。明日を思うと憂鬱ではあるがそれでも、早い段階で前に進むことが出来た。

「頑張ったじゃん」
「え、」
「や、だって……。そんなん見たらおれなら絶望っていうか。ウザイし、普通に。腹立つし、感情ばっかで動くからさ、マジで警察沙汰になるくらい暴れると思うから、大人な判断できてるなーって」
「……やり返せなかっただけですよ」
「おつかれ」

　ぽん、と一回だけ頭の上に手が乗る。細くて、今にも折れてしまうんじゃないかってくらいの手。服の間から見えた手首の包帯に、きっと彼が望んでもいない同情を覚えてしまった。

　見える傷と見えない傷。
　露骨に表す人もいれば、隠したがる人もいる。この人も多分、見えない傷が沢山あるはずなのに、それでもお客様を優先するなんてプロ意識が高いなと感じた。

　全然、気だるげなんかじゃないや。
　この人、凄く熱くて、温かい人だ。

「ふふ、なんのおつかれですか？」
「あぁ？日々の疲れとか。溜まってんでしょ」
「溜まってますね、とっても」
「……なら、今夜は忘れろよ」

　一時的に。たった三〇分の時間だけは全てを忘れて何も知らない女の子でいたい。誰かに身を任せて、お酒と一緒に酔いに浸りたい。

　すっと伸ばしたゆきむらさんの指先が唇の横に触れる。ばぁうくんとは違う冷たい指先。それがお酒の熱を飛ばしていく。

「笑った顔、かわいいじゃん」
「っ」
「隠してるなんて、普通に勿体ないから、おれの前ではいろんなとこ見せろよ。……笑っても、怒っても、泣いてもいい。……隠すならおれが隠すから。ここでは弱音、全部吐いとけ」