好きだということにして ページ15
勘当。知らないわけではない単語。
幾度となく父にされかねないと考えた言葉。
でもまさかかき氷をほおばっていた彼女がそこまでの何かをしでかすとはどうにも思えなかった。
ある一点を除き。
「Aお姉さまがそんなことになるようには思えないのですが…」
司くんがやはりこちらも戸惑うように首をかしげるのを見て、天祥院くんは小さく笑った。
「二人は覚えてないかな…だいぶ昔だけれど、彼女にはあったことがあるはずだよ。
溢瀬財閥、うちや桃李たちのところほどではないけれど、名だたる財閥だ」
多少家柄がいいだけ、それもあんな家の生まれの自分には理解もできない話。
それでも、何か起こしたというのなら、それは。
「…もしかして。Aちゃんが家族に受け入れられてないのは、俺のせい？」
じ、と何を言うでもなくこちらを見ていた彼女の瞳を見る。
澄んで何も知らないそれは、自分の姿を映していた。
「それは、どういうこと」
彼女の可愛らしい声は、困惑と不安に揺れていた。
「薫くんが何かしたの、そんなことないよね」
本当のことを言おうか、いわないかと迷う。
言ってしまうべきだろうが、言えばどうなるのかという不安がひどく痛い。
嫌われたくない。
拒絶されるのが怖かった。
「ねぇ羽風くん。隠してもいいけれど、君はそれでいいの」
天祥院くんの緑色の瞳が、穏やかながらこちらを面白くないというようにこちらを捉える。
それに煽られたようで気が食わないけど、ぐっと飲み込んだ。
グラグラと頼りなく揺れる自分の意思を無理やりつなぎとめて、彼女をじっと見つめる。
可愛いその表情に、ときめくと同時に切なくもある。
「…今から言うから、聞いてくれる？」
「もちろん」
本当は逃げたい。
今のぬるま湯のような関係でいたい。
進みたいけど怖かった。
でも、それでも。
「君と俺は、付き合ってたんだよ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 41人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こひな | 作成日時：2019年3月23日 19時
