居場所をなくした先の店で【浦島坂田船】

＊ ページ29

坂田side

さ「………」

俺は、あれからAを帰したあと、みんなのいる場所には戻らないでいた。

いつものあの人(彼女)のソファを撫でるように触り、孔雀の絵をぼーっとしながら眺めていた。

…実際には、天空への扉、というべきだろうか。Aにはまーしぃが今のところ、うまくこのことを言いくるめて、隠してくれたらしい。

この扉の向こうは、普通の俺らの生まれた、いや、"生み出された"、場所が広がっている。

あぁ、なんで普通に生まれなかったんだろう。どうして、Aと一緒の世界で楽しく暮らせなかったんだろう。

そんな願いを何度も心の中で繰り返す。そんなことしたって、意味ないけど…

それに、俺とおんなじように思ってるやつはあと3人もいる。いつ取られても、おかしくはない。

そう思うと、また涙が滲み出てくる。嫌や、消えたくない。Aとは離れたくない…！

あいつらは怖くないんやろか。消える、ということが。俺にとっては怖くて怖くてたまらない。

そりゃ、"昔みたいに"たくさん遊んで笑いたい。でも、それはもうできないから。

少なくとも、今までみたいにAを見守って、ピンチの時はどうにかして助けたりするのならまだいい。Aからしては認識がなくても、ずっと隣で居られるのだから。

でも、消えてしまえば別。二度とAの可愛い顔も、声も見えなくなるし、聞けなくなる。そんなの嫌や。

俺にとっての居場所はAの隣なんや。ずっと…そこにおったんや。…あいつらも一緒だったけど…

だから、消えるわけにはいかへん。それがもし、友達を犠牲にしてでも。Aだけは俺は譲らへん。

そうじゃなかったら…今までのAへの苦労は全部、全部水の泡なんだから。

そろそろ、戻らなきゃ。みんなが怒っちゃう。そう思い、店から出ると同時にさっきのAのことを思い出した。

動揺して、言葉に詰まっちゃうとこも、笑顔が可愛いとこも、俺のことを心配して優しく言葉をかけてくれるのも、全部。大好きだから。


僕を選んでよ……A。

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