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死を捕まえる異邦人 両儀志 ページ31


 
 
シャッターを開けば、そこは異世界だった。人工的とは言い難い木の配置に木漏れ日。観布子市ではあまり見られない光景。一歩踏み出せば、予想以上に地面が柔らかい。ロンドンブーツで腐葉土の地面を歩きながら、彼女はぼんやりと空気の匂いを嗅いだ。
鬱勃と湧き出る水のように、空気には薫りがあり色がある。志のいた世界ではこんな空気はあり得ない。外の世界は澱み、沈殿する空気。それがこの世界では熟れた果実のような甘く、いつか、この空気に飲まれてしまいそうな程だ。

夜空に浮き彫りになっている月輪は青々と冷たく輝き、鋭さを湛えている。麻酔されたこの世界で、月と、彼女だけが生きている心地は錯覚でしかないのだろう。だと言うのに一度そう思ってしまうと酷く、目が痛む。
浅葱色の着物に黒に染められたブルゾン。交わらない和洋折衷という言葉がピッタリの服装をした彼女は歩き続けるとそこそこの大きさの木造一軒家が網膜に映り込む。少し上を見上げれば、屋根には大きな穴が開いていた。まるで人が空から降ってきて、屋根にぶつかったような、そんな空洞。


「変な家だな。屋根に穴が空いててここの家主は不便じゃないのか?」

眉を顰める両儀。誰かが一緒にいれば、目の付け所が違うとでも突っ込むのだろう。生憎そんな相手は彼女にはいない。否、一人だけいる。重度のお人好しで彼女の姉を堕としたタラシ義兄。だがこのには彼女一人。少女は孤独だ。
野宿でもしようと考えていたが、地面に寝転ぶ趣味も服を無闇に汚す考えも無い彼女は、海より深い溜息を吐いた後にコンコン、と小さくノックを────しようとしたが思い留まる。

家の中にはいくつもの気配がしており、人間嫌いな志にとってはそんな場所にいるのは我慢ならない。だから家の壁に凭れかかって日本の刀を肩に置いて眠る。土で汚れるのは嫌だが致し方ない。


────ここは、何処だろう
意識が堕落していく最中、志はそのことだけを考えた。また、あの僧みたいなやつが作った異界なのだろう、なんて考えが過ぎる。だが彼女はそんなはずは無いとすぐに否定した。あの人形師は何もしてこないと言っていたのだから。

……姉さん。
ふと、自分ではないのかと思うほどに志にそっくりな一人の少女を思い浮かべる。彼女のもう一つの半身。今は亡き幸の代わりに自分を支えてくれた姉。ぼんやりと今までのことを思い返しながら微睡に浸る。懐かしい、懐かしい夢の中で幸せに。

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シオンはアムルガムの派生(?) - 更新しました。お話がいっぱいになっちゃったので続編を作らせていただきました〜 (2022年12月24日 16時) (レス) id: da22832432 (このIDを非表示/違反報告)
シオンはアムルガムの派生(?) - 更新します (2022年12月24日 15時) (レス) @page46 id: da22832432 (このIDを非表示/違反報告)
十六夜紅葉(プロフ) - 更新しました! (2022年12月23日 20時) (レス) id: 3b8feebb6c (このIDを非表示/違反報告)
十六夜紅葉(プロフ) - 更新します! (2022年12月23日 20時) (レス) @page45 id: 3b8feebb6c (このIDを非表示/違反報告)
十六夜紅葉(プロフ) - 天洲秋さん» わかりました! (2022年12月23日 20時) (レス) id: 3b8feebb6c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:サナティ x他9人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/  
作成日時:2022年12月7日 14時

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