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ラウールは隣の病室の向井と目黒を連れてやって来た。一人で来たのかと心配したが、どうやら行き帰りだけ誰かに送り迎えを頼んでいるらしい。
kj「まだ起きひんのやな、」
ru「……いい加減にしてよ」
mg「ラウ?」
ru「なんで起きないの、」
kj「……ラウ、」
ru「ねえなんで、とっくに目覚ましていいはずでしょ? ねえなんで!」
ラウールの涙声に申し訳ない気持ちが湧き上がるも、深澤は未だ目を覚ます勇気を持てずにいた。
ru「……早くちゃんとお礼言いたいのに」
mg「……」
ru「家族になってくれてありがとうって、家族にしてくれてありがとうって、言えてなかったから早く言いたいのに……!」
その言葉を聞いてもなお、深澤の脳は暗い方に向かって動き続けた。まだその思考を切り替えられない。
彼を一度は救ったかもしれないが、また危険な目に合わせたのは事実。それに、助けたのが深澤達でなければ、彼はまだ表の世界に戻るチャンスがあったかもしれない。
kj「……俺、助けてもらえへんかったら今頃お縄やったんやろな」
mg「俺とっくに死んでるわ」
向井にも目黒にも、結局自分が余計なものを背負わせた。結局、闇の中で生き続ける事を強いた。
感謝される筋合いはないだろう。自分勝手な理屈で彼等を振り回しただけじゃないのか。
kj「……俺もふっかさんにお礼言わな」
mg「俺……謝らなきゃ」
ru「なんで?」
mg「昔、酷い事言ったから」
kj「……何言うたん」
mg「偽善者って」
kj「あら、」
謝らなくていい。その言葉は正しい。
結局は偽善だったのだ。偽善者で、エゴイストだったのだ。
阿部と佐久間も、結局は自己満足のために助けたんじゃないのか? 助けてやった自分に酔ってただけじゃないのか?
mg「……昔の俺に教えてあげたい。お前が偽善者だって言った人は本物のいい人で、命の恩人なんだって」
本物のいい人だなんてそんな事、言わないでくれ。
頼むから、それ以上は言わないでくれ。もう溢れそうだから。
kj「……やば、そろそろ先生見に来るんちゃう? 戻らな」
mg「マジ? 行くか……ラウールは?」
ru「……俺も行く」
kj「わかった……じゃあね、ふっかさん」
mg「また来るね」
ru「……早く目覚ましてね」
足音が遠ざかり、やがて完全に聞こえなくなった所で深澤は目を開けた。
__家族になってくれてありがとう、だなんて。
ついに耐えきれなかった深澤は、その目から静かに感情を吐き出した。
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長谷川遥香(プロフ) - 完結したけど続きでリクエストバージョンも見たいです! (2022年1月3日 21時) (レス) id: 3679b26edd (このIDを非表示/違反報告)
雷(プロフ) - ものすごくおもしろくて、一気読みもしたのに誤って低評価を押してしまいました…!本当は心からの高評価です、おもしろかったです!嫌な気持ちにさせてしまったらすみません…! (2020年10月14日 22時) (レス) id: 02bdc07e91 (このIDを非表示/違反報告)
kjars8888888(プロフ) - やっぱアジさんの裏稼業が最高だな!! (2020年9月21日 23時) (レス) id: 55f2f63f60 (このIDを非表示/違反報告)
mgrwtnb(プロフ) - 完結おめでとうございます!最後まで涙が止まりませんでした。これからも応援してます! (2020年9月17日 20時) (レス) id: 1e6ed00ec9 (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 完結おめでとうございます。とても面白く、更新を毎日楽しみにしていました。これからも応援してます! (2020年9月15日 22時) (レス) id: afba355943 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:怜 | 作成日時:2020年8月29日 15時